台湾海峡は狭いか

 アメリカは軍事力で台湾を防衛できない。
 こういう論文がことし5月13日、ニューヨーク・タイムズに載りました。ニューヨーク市立大学のピーター・ベイナート教授の寄稿です。
 中国軍は急速に近代化を遂げている。アメリカの艦艇は台湾海峡に向かっても、もはや中国の対艦ミサイルに対抗できない。軍事力で台湾が防衛できないなら、アメリカの台湾政策、中国政策はどうあるべきか。

 この論文を信じるなら、中国の台湾「統合」はもはや時間の問題です。
 香港が中国に制圧され、アフガニスタンから米軍が撤退したいま、前途は暗い。
 そう思っていたら、別の論文が出ました。
 中国だってそうかんたんに軍事行動は起こせない。だからまだチャンスはあると、中国の軍事と安全保障の専門家であるスタンフォード大学のオリアナ・スカイラー・マストロ研究員がいっています(What the U.S. Withdrawal From Afghanistan Means for Taiwan. By Oriana Skylar Mastro. Sept. 13, 2021,The New York Times)。

 長文の論文の曲解になるかもしれないけれど、ぼくの印象に残るのは次のようなことです。
1)アメリカのアフガニスタン「敗戦」で中国は勢いづくか? そんなことはない。むしろ用心深くなるだろう。いまやアフガニスタンから撤退したアメリカには余力がある。
2)台湾はアフガニスタンとちがう。アメリカが台湾の半導体産業に深く依存しているように、台湾の戦略的価値ははるかに高い。
3)アメリカは“アフガニスタン程度のこと”で20年も戦争をした。それが台湾だったらこんどこそ本気になる、と中国は考えるのではないか。
4)かりに軍事力で中国が台湾を制圧しようとしても、短期間に決定的な戦果を収めなければならない。長期化すれば中国は不利になるばかりだ。この点ではアメリカは優位にあるだろう。

台北市街 (Pixabay)

 情勢をどう捉えるかによって、中国本土と台湾のあいだの150キロという海峡は狭くも広くも見える。

 こういう巨大な問題について、ぼくなんかが考えることはほとんど意味がない。どうでもいいと思ってしまう。でも、そこで思考停止してしまっていいのかどうか。それじゃいけないとしても、どうすればいいんだろう。
 台湾の人たちと、どうにかこうにかして話しあってみたい、生の声を聞きたいと思います。
(2021年9月15日)