国の枠を超え

 ウクライナと台湾はまったく事情がちがう。だからまちがえるなと、アメリカ駐在の中国大使がいっています。
 中国大使がアメリカの新聞に寄稿するのはめずらしいことですが、ワシントン・ポストが中国の宣伝に乗る形でこれを掲載したのは、ロシアであれ中国であれ言い分があれば聞く、それが言論の自由だということでしょう(Opinion: Chinese ambassador: Where we stand on Ukraine. By Qin Gang. March 15, 2022, The Washington Post)。

 中国の秦剛(チン・ガン)駐米大使は、ウクライナ戦争について要旨こういっています。
・・・ロシアがウクライナに侵攻するのを、中国は事前に知っていて止めなかったとか、北京五輪が終わるまで待つよう頼んだとかのうわさがあるが、根も葉もないことだ。中国は国連憲章を尊重し、各国の領土と主権を尊重する。もちろんウクライナの主権も守られなければならない。だから一貫して戦争ではなく平和的な解決を主張している。

 台湾はウクライナとおなじだという人がいるが、まったくちがう。ウクライナは独立国だが、台湾は中国の一部であり主権国家ではない。われわれは台湾の平和的統一を望むが、もしも「台湾独立」というような動きがあればすべての手段を使って阻止する。だからアメリカがはっきりとひとつの中国の原則を守り、「台湾独立」のような動きに惑わされないことを願う・・・

台湾のひまわり学生運動(太陽花學運、2014年)
(Credit: othree, Openverse)

 この泰大使の寄稿を読んで、ぼくは一方的だとは思いつつ論理的には正しいと思わざるをえませんでした。
 中国は国連憲章に沿って行動している。台湾はもともと中国のものだという言い分は一貫しています。そもそも中国が国連に加盟し、台湾が排除されたときにこの構図はできあがった。それはアメリカも日本も、国際社会のだれもが認めた構図なのです。

 では中国が正しいのか。
 うっかりそう思いそうになるけれど、なにかがちがう。
 そして考えたのは、この構図に対抗するためには「国」という枠組みを離れるしかないということでした。

ひまわりはウクライナの国花

 じつはそれこそが、ウクライナの戦っているものではないか。
 ウクライナの人びとは、ウクライナという「国」を守るためではなく、「ウクライナ人でありたい」「ロシア人に同化されたくない」ために戦っている。国境線を維持し、領土を守ることより、自分たちの地域を守りたい、自分の生き方を守りたいという感覚でしょう。それは大ロシア帝国の再現とはかけ離れた希望です。
 でも、そのレベルであるならやはりウクライナと台湾はおなじ問題です。
 泰大使に同意できない理由はそこなのです。
(2022年3月16日)