地名を冠するのでなく

 コロナのケント型?
 BBCが、コロナ・ウィルスの変異株、「ケント型」が増えているといっていました。
 去年9月、イギリスのケント州で見つかったコロナの新しいタイプだとか。
 また新しいのが出たの? これまで広がっていた「イギリス型」と、どうちがうんだろう。
 混乱しながら記事を読んでいて、ひらめきました。
「ケント型」って、ぼくらが「イギリス型」と呼んでいるコロナ・ウィルスのことなんだ。

 イギリス人は、ケント州で見つかった新型のことを「イギリス型」とはいわない。「ケント型」といっているのです。
 もし横浜でコロナの新しいタイプが見つかったら、ぼくらはそれを「日本型」とはいわない。「横浜型」という。それとおなじことで。

 次々と出てくるコロナ・ウィルス変異型には、新しい名前が必要です。
 これまでイギリス形といわれてきたコロナ・ウィルスの変異型、これは科学者のあいだで「B.1.1.7」型と呼ばれています。
 感染力が強く、ワクチンも効きにくい「南アフリカ型」は「B.1.351」。
 ブラジルで爆発的に広がり、再感染も起きる「ブラジル型」は「P.1」。
 こういう新顔に、どういう一般名称をつければいいのか。

 やっぱり、南アフリカとかブラジルとか、国の名前をつけるのはまずいんじゃないか。すでに地元から「やめてくれ」という声も起きています。1918年の「スペインかぜ」だって、見直すべきだという意見があるほどです。

 どこかの大統領が、コロナ・ウィルスをわざと「中国ウィルス」と呼んだのは醜悪でした。そんなことをいうなら、最大の犠牲者数を記録した今回のコロナは、後世「アメリカ病」、いや「トランプ病」と呼ばれることになるでしょう。

 それはともかく、学名である「B.1.1.7」や「B.1.351」に代わる名前をどうつけるか、WHOが数十人の学者グループで検討をはじめました(Why Virus Variants Have Such Weird Names. March 2, 2021, The New York Times)。

 台風の名前のようにすればいいとか、ギリシャ文字を使おう、鳥の名前、動物や妖怪の名がいいとか、いろいろなアイデアが出ているようです。
 妖怪の名なんて、いいですね。コロナ・ウィルス「かおなし型」、「おしらさま型」、「やみくろ型」・・・。翻訳がむずかしいか。

 スイス・ベルン大学の分子生物学者、エマ・ホドクロフトさんは、「かんたんに発音できて、書けて、覚えられる名前でなければ、みんなが使うようにはならない。また地名にもどってしまう」といっています。どういう名前にするか、なかなかむずかしい作業です。
(2021年3月3日)