地域に出てゆく

 ときどき、デイケアのメンバーはゴミ拾いをします。
 浦河ひがし町診療所デイケアの、プログラムのひとつです。
 プログラムといってもきちんとしたものではない。時間も参加者も、どこに行くかもその場の思いつきで決まる。もちろん雨だったら出かけません。

 金曜日はよく晴れた日でした。10時過ぎ、「ゴミ拾い、行くよー」と、誰かが声をかけたのか、かけなかったのか、何人かが外に出てきました。でも、ゴミ拾いの長いトングを渡されると、おれ、できないといってやめたり、出かける前にもう疲れた、といって引っこんでしまったり。

 3班に分かれての作業でした。1班は草取り、2班はゴミ拾い、3班はタバコの吸殻拾い。
 タバコ担当になった柳一茂さんは、ほんとはあと二人来るはずだったんだけど来なくて、といっていました。スタッフと2人だけの作業。でもまあ天気はいいし、外を歩くのは気分がいいものです。
 診療所を出て100メートルほど、国道沿いの歩道を往復して100近い吸い殻を拾いました。

 なんで吸殻拾うの、と聞くと、いやおれたち、けっこう吸ってるからという返事でした。デイケアのメンバーのなかには、路上でタバコを吸う人、建物の陰で吸う人もいます。注意してもなかなかいうことを聞かない。柳さん自身はルールを守っているけれど、そうではない、というか、そういうふうにできない仲間が何人かいます。

 自分が捨てたのではない吸い殻を拾う。仲間の何人かが路上喫煙をするので、その後始末をする。
 いわば尻ぬぐいです。でも拾っている柳さんたちには、尻ぬぐいの感覚はない。
 みんな、できることもあれば、できないこともある。病気の重い人にちゃんとしろといっても無理だ、できるわけはない。それは自分の経験から身にしみてわかっています。
 そこで、おれはおれのできることをする、というのが柳さんたちの気分でしょう。
 吸殻拾いは、ご飯が上手に食べられない仲間を助けるのとおなじことです。
 ここには何か、一般社会の人たちとはちがう、人と人のつながりがあります。

拾った吸い殻とゴミ

 ちなみに、この日拾った吸い殻のほとんどは、仲間のものではありません。誰かわからない人が捨てたもの。一方、デイケアの仲間がどこかに捨てた吸い殻は、拾いきれていません。
 捨てる人がいれば拾う人もいる。それで世間は回っている。そういう、ゆるーいつながりでいいのではないでしょうか。
(2021年8月21日)