ハワイには野生のニワトリがいます。
野生動物なので、捕らえたり食べたりしたら違法です。
ところがこのニワトリ、最近では増えすぎてちょっとした社会問題になっている。
と、ハワイ人(ハワイ先住民)の作家、ケオニ・デフランコさんが書いています( It’s true our Hawaiian Islands are overrun — and not just by chickens. By Keoni DeFranco. June 8, 2022, The Washington Post)。

(Credit: Ron Cogswell, Openverse)
ニワトリがどれだけ増えて、どんな迷惑になっているのか。デフランコさんによればこうです。
・・・ニワトリは1500年前、ポリネシア諸島からハワイ先住民がカヌーに乗せて持ち込んだ。
それから何百年ものあいだ、先住民は自足的かつ持続的で複雑な農業社会をつくり、ニワトリも増えつづけた。しかし大陸からやって来た白人たちがハワイ先住民の社会を征服し、「西洋化」し、その過程でニワトリは野生化した。
いまでは野生のニワトリが増えすぎ、住宅街に入りこんで迷惑だという人が増えている。当局が捕獲作戦をはじめたけれど、さまざまな意見が出てきた・・・
なるほどと思いながら読み進むと、デフランコさんの論調がだんだん変わります。
・・・彼らは私たちの島にはびこっている。でもはびこっているのは彼らだけではない。少なくともニワトリは招かれずにやって来たのではなかった。
ハワイにはびこっているのはアメリカ軍であり、観光産業であり、外からやって来て住みつく人びとだ・・・

そうかと、ぼくは気がつきます。
ハワイでニワトリが増えて困っているのは、外から、大陸から来た人びとの視点です。ハワイ人にとってニワトリは何の問題でもなかった。先住民にしてみれば、外から来た人びとがニワトリなのです。少なくとも彼らは、招かれた人びとではなかった。
あなたたちが来るまで、この島には平和があった。
あなたたちは、その平和がなくなったことを少しは気にするだろうか。そもそもそんな平和があったと知ることもなかっただろう。デフランコさんはそういいたいのだろうけれど、そんな非難めいたことはいっていない。
ハワイには、ニワトリとともにハワイ先住民の文化が残っている。デフランコさんにいわれるまで、ぼくはそれを気にすることもありませんでした。
複雑に曲がりくねった先住民の視線が、彼の論調にからみついています。その視線の前で、ぼくは立ち止まります。
(2022年6月13日)