めずらしく、台湾映画を見に行きました。
「1秒先の彼女」、チェン・ユーシュン監督の作品です。
映画紹介を見ると、「ファンタジックなラブコメディ」とあります。
でもそんな定型的な表現を超えた、新鮮な感覚にあふれたタイワン映画でした。
まず、主演女優のヤン・シャオチー、リー・ペイユーさんがすばらしい。演技力というよりは個性なんでしょうね、明るく才気活発、でも、そのへんのどこにでもいそうな日常感に満ちた女性。こういう人がいると世の中は楽しくなるだろうというような。
彼女が優れているのか、優れた彼女を引き出した監督に力があるのか。

映画そのものは時間が止まったり1日がなくなったりするという、ミニ・タイムトラベルのような荒唐無稽な設定です。でも乱暴な筋立てを意識させないコメディのつくりで、しかも人情を描いてうまい。
郵便局が、主要な場面のひとつです。これが日本の郵便局にそっくり。入っていくと番号札を取り、空いた窓口に行くところなど。そして台湾の郵便局であるにもかかわらず女性職員の制服、視線、身のこなし、まったく違和感がない。これは日本映画を台湾語に吹き替えたのかとさえ思ってしまう。
そういう気安さに浸った次の瞬間、でもやっぱりこれは台湾だという異界感覚が句読点のようにはさまれる。おなじようでちがう、「あ、やっぱり異文化だ」という感覚にしばしば呼び戻される。その浮遊感が楽しい。
たとえば唐突に、ヤモリの神様なんていうのが出てくる。
ヤモリは家のなかをいつも見まわって、住人がなくしたものを取っておくのだ、といいます。そして郵便局の私書箱の鍵を返してくれたりする。その場面、ぼくはなぜか強烈に「台湾文化」を感じていました。

時間が止まったりスキップしたり、現実にはありえないファンタジー。
台湾は日本とおなじだという、現実にはありえない感覚。
すべては夢のようでありながら、何か所かはさまれる、かぎりなく鮮烈な映像。
幾重にも重なった「ありえなさ」が、ファンタジーをファンタジーとは思えなくさせてくれる。
どこかでまたもういちど見たい映画です。
(2021年7月25日)