大企業の立ち位置

 コカ・コーラ飲むの、やめようぜ。
 アメリカの共和党議員たちがいっています。
 飛行機乗るなら、デルタ航空じゃなくて。
 野球も見るなよ。

 アメリカの選挙法をめぐる政治闘争に、コカ・コーラ、デルタ航空が「民主党寄り」の意見を表明したので、共和党が怒っています。
 コカ・コーラだけじゃありません。
 HP、ダウ、アンダーアーマー、ツイッター、エスティー・ローダーなど名だたる大企業193社が連名で「反・共和党」の立場を明確にしました(4月3日 The Washington Post)。おまけに大リーグをまとめるMLB(日本でいえばプロ野球のNPB)までもが、共和党に抗議してオールスターゲームの開催地を変更しています。

 論議の的は、投票権です。
 アメリカ全土で、共和党が「黒人の投票権を制限しよう」という運動をはじめた。
 去年の選挙で共和党が負けたのは黒人の大多数が民主党を支持したから。じゃあ黒人が投票しにくいようにしよう。すでにジョージア州でそういう選挙法の改正が行われたと、8日付の朝日新聞も取りあげました(11面、“投票規制 広がりに懸念”)。

 ここでぼくが興味深いのは、共和党の標的とされたコカ・コーラをはじめとする大企業の行動です。

 ふだんは政治に口を出さない。けれどここでは立場を明確にせざるをえなかった。
「投票の制限」は共和党と民主党の争いなんてもんじゃなく、民主主義への挑戦、黒人の投票を制限しようというのはあからさまな黒人差別、人権問題ではないかと。

 一連の議論で、しばしば「市民としての企業 corporate citizenship」とか、「企業の説明責任 corporate accountability」ということばを目にするようになりました。
 経済活動に専念する企業といえども、この社会の一員でではないか。「民主主義」や「人権」の根幹にかかわる問題が起きたとき、企業も黙しているわけにはいかない。そんな思考がいま、少なくとも一部のアメリカの企業には浸透しているようです。

 ぼくはそれが去年のBLM、ブラック・ライブズ・マターの運動とつながっているのではないかと思います。
 つまりそれほどに、あの運動は広がりを持っている。
 日本企業は無視しているかもしれないけれど。
 その行く末を、コカ・コーラを飲みながら見きわめたいと思います。
(2021年4月8日)