最近アメリカのメディアで「大離職」(Great Resignation)ということばが流行っています。
1930年代の大恐慌(Great Dpression)をもじった造語でしょう。
この夏以来、記録的な数の労働者が離職しているためです。
何か大きな社会変動が起きているのかもしれないと、ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、ポール・クルーグマンさんが次のようにいっています(The Revolt of the American Worker. By Paul Krugman, Oct. 14, 2021, The New York Times)。

・・・労働者はかつてない割合で離職している。雇用者は賃金をあげ、労働者を引きつけようとしているが、その結果、娯楽産業や接客業の分野で過去6か月に賃金は18%も上昇した。
いま起きている「大離職」は、多くの労働者が職を去るか、または賃金の上昇や労働環境の向上を求めているということだろう。保守派は、コロナの公的な給付金が労働意欲を低下させたと主張するが、給付金がなくなっても労働者は仕事にもどろうとしていない。

アメリカはゆたかな国だというのに、労働者を大事にしてこなかった。インフレを考えれば賃金は40年前のままだし、労働時間は長く、「休暇なしの国」といわれるほど他の先進国にくらべて休暇が少ない。おまけに仕事は不安定だ。こうしたことを考えれば、多くの労働者が仕事をやめ、もどろうとしないのはよくわかる。
これは推測だが、多くの人はコロナを機会に自分の暮らしを見直すようになったのではないか。もちろん離職する余裕のない人も多いだろう。けれどかなりの人びとが、この際新しい暮らしに切り替えてもいいと考えるようになった。多少の損でも退職を早めるとか、もう少しましな仕事に変えるという形で。
それは全体としてはいいことだ。労働者が自らの有利になることを主張するのは、社会全体の利益にもなるのだから・・・

大離職は、主要メディアがどこもみな取りあげている注目の現象です。
いずれもコロナの影響にふれている。生活の激変で、少なからぬ人が日々の暮らしや自分自身の生き方を見直すようになった。だとするなら、コロナも悪いことばかりではなかったということでしょう。
日本はどうなんでしょうか。
解雇や失職はあっても、大離職はないようです。みんなひたすら、コロナ以前にもどることだけを考えているかのようで。
だとするなら、コロナは悪いことばかりだったということになるのでしょうか。
(2021年10月18日)