女性が指揮するとは

 いわれてみれば、たしかにそうだ。
 ということのひとつが、オーケストラに女性指揮者がいないということ。
 オーケストラって、いまの社会に残った数少ない男社会のひとつなんでしょうか。それが変わる兆しを見せています(Top Orchestras Have No Female Conductors. Is Change Coming? Sept. 10, 2021, The New York Times)。

 この記事によれば、音楽界でもクラシック音楽、ことにオーケストラの指揮者はもっとも男性支配がきわだつ分野です。
 アメリカにあるトップレベルのオーケストラ、25団体の指揮者はすべて男性です。ボルチモア交響楽団というところには、2007年から史上初の女性指揮者、マリン・アルソップさんがいましたが、彼女が先月引退したいまは、どこにも女性指揮者がいません。

 アルソップさんは在任中、ゲスト指揮者に女性を迎えたいと企画したことがあったけれど、強い抵抗にあいました。
「私の任期中に状況は変わると思ったけれど、甘かったですね」

 とはいえ、いくつかのオーケストラは女性の採用に前向きです。有力な候補者として、フィンランドやイギリスの交響楽団の女性指揮者の名前があがっているとか。またアメリカのクラシック界でも多くの女性が指揮者への道を歩んでいるので、候補者には事欠かない。何より各楽団の経営者が、多様性を求める圧力を無視できなくなっています。

 シンシナティ交響楽団のジョナサン・マーティン理事長は、何十年にもわたって女性が指揮者になれなかったのは、そういうしくみができあがっていたからだといいます。たとえば指揮者を決める選考委員は、もっぱら男性で占められているというふうに。
「問題は彼女らが機会を与えられなかったことです。才能がなかったからではない」

 女性指揮者の進出を阻んでいるのは、オーケストラの指揮者はカリスマ的な男性指揮者でなければならないというファンの思いこみです。けれどそのファンも、時代とともに変わる。最近では女性やマイノリティの指揮者を求める声が強まっているので、数年のうちに男性との交代が進むでしょう。

 じゃあ日本はどうなんだろう。
 人気指揮者ランキング、というようなサイトをちょっと調べたかぎり、日本には名だたる女性指揮者はひとりもいないようです。
 日本でも、きっと問題は女性に才能がないからではないのです。
(2021年9月14日)