アメリカのバイデン政権の強みのひとつは多様性です。
閣僚やスタッフに多くの黒人やヒスパニック系、アジア系が入っています。もちろんほぼ半数が女性、LGBTもいます。
そのうえ内務長官には、閣僚として初の先住民の女性、ネイティブ・アメリカンのデブ・ハーランドさんが就任しました。ニューメキシコ州のプエブロ族の出身です。
そのハーランド内務長官が、数多くの政策のひとつとして、このほど寄宿学校の跡地を調査すると表明しました(Lost Lives, Lost Culture: The Forgotten History of Indigenous Boarding Schools. July 19, 2021, The New York Times)。

(内務省サイトから)
寄宿学校というのは、先住民の子どもたちを「文明化」するためにつくられた学校です。18世紀から20世紀なかばにかけて、こうした学校は先住民の子を親から引き離し寄宿舎に収容し、白人文化への同化教育を進めました。先住民文化を否定し、英語を強制し、子どもたちの名前も英語名に変えてしまったのです。
後世の歴史家のひとりは、これを「絶滅の教育」と呼びました。
じつはおなじような同化教育がオーストラリアやカナダでも行われています。そして先月、カナダの寄宿学校2か所の跡地から、合わせて1千人近い先住民の子どもの遺骨が発掘されました。虐待や栄養失調、病気などで死んだ子どもたちです。トリュドー首相は、「カナダの暗く恥ずべき歴史の一部だ」と述べました。

カナダであったことは、アメリカでもあったはずだ。
当然、誰もがそう考えます。事実、ペンシルベニア州カーライルでは先週、こうした寄宿学校のひとつの跡地から、先住民ラコタ族の子ども9人の遺骨が発掘されました。遺骨は先住民のいるサウスダコタ州に運ばれ、伝統にのっとって再埋葬されました。
もしもトランプ政権だったらきっと、「そんなのは過去の話だろ、何をいまさら」と無視したでしょう。でもいまはバイデン政権、しかも内務省のハーランド長官は先住民なので、たちまち寄宿学校の跡地を「調査しよう」となったようです。

アメリカには、こうした寄宿学校で教育を受けた先住民が、いまもたくさん生き残っています。
自分を失い、アルコール依存症になった人も少なくない。でも同化教育を生きのび、ふたたび先住民として生きるようになった人もたくさんいます。彼らを支えたのは、幼い日の父や母、祖父母のことば、教え、祈りだったといいます。
(2021年7月20日)