子犬のように

 先週末もまた、浦河ひがし町診療所の共同住居「すみれⅢ」で朝カフェが開かれました。
 メインメニューはフレンチトーストです。パンをただ卵に浸して焼くのではなく、その前後に砂糖と蜂蜜を別々にまぶすなど手間をかけています。野菜炒めが添えられ、コーンスープにはクルトンも浮いていました。

 4歳になったタックが、オイシ-、と叫び声をあげます。フライパンでトーストを焼いていた佐々木結衣さんに、「ユイちゃん、オイシ-」と連呼。料理人もお客もゲストもみんなごっちゃの、とりとめもないなごやかさ。

 その朝カフェが一段落したところで。
 すてきな朝ごはんをありがとうと、松井純菜さんがテーブルの反対側にまわって、トーストを盛りつけてくれた純毛めぐみさんの背中に抱きつきました。再度「おいしかったよー」と声をかけながら。
 その後ろから料理人の鈴木まいさんが、よかったね、と抱きつきます。

 あったかーい。
 松井純菜さんは、前に純毛めぐみさん、後ろに鈴木まいさんに抱きつかれ、お腹も背中もじんわりとあたたまり、ありがたさにひたりました。

 あったか-い。
 3人で笑いながら、くっついている。
 横で佐々木さんが、そりゃあったかいだろうよと目を細める。
 そのあと、こんどは純毛さんの手をなでてよろこんでいます。この手、ふわふわあったかい、クリームパンだよ。

 子犬がじゃれあってるみたいでした。
 どうということのない場面だけれど、いまこのとき、このわけのわからないややこしい世界で、こんなふうにすべてを忘れてしあわせと思える人が、いったいどれだけいるでしょうか。


 松井さんも純毛さんも佐々木さんも、この一瞬のあと、朝カフェが終われば、またわけのわからないややこしい世界にもどります。金、仕事、人間関係。でもこうやってくっつきあうことができれば、耐えられるかもしれない。何かが変わるかもしれない。
 あるいは何も変わらないかもしれない。
 こういう日常のくり返しのなかで、朝カフェや共同住居の姿は形づくられてゆきます。
(2021年12月6日)