学校名を変える

 そこまでやるの?
 記事を読んで、これもまたいまのアメリカかと感心しました。

 サンフランシスコ市の教育委員会が、「ジョージ・ワシントン」や「エイブラハム・リンカーン」などの名前を、市内44の公立学校から外すというのです。ワシントンやリンカーンは奴隷制や先住民の虐殺に関与したから、という理由で(San Francisco Scraps 44 School Names, Citing Reckoning With Racism. By Bryan Pietsch, Jan. 27, 2021, The New York Times)。

米ドル紙幣のワシントン大統領

 たしかに初代アメリカ大統領、ジョージ・ワシントンは多数の奴隷を所有していました。200年も前のことですが、教育委員会は「学校名にそのような人物の名を冠するべきではない」と決めたのです。市内のワシントン高校は、別の名前に変えなければならない。

 なるほど。でもリンカーンは奴隷を解放し、黒人の地位向上に貢献した。そういう大統領がなぜいけないんだろう? それは彼が1862年、“ミネソタ蜂起”と呼ばれる事件で、白人開拓者に立ち向かった先住民38人の死刑を認めたからだそうです。つまり先住民「虐殺」を行ったことになる。
 だからリンカーン高校も別の名前にしなければならない。

 学校の名前を変えようという教育委員会の案は、6対1で可決されました。

 こうした動きの背景には4年前、バージニア州で起きた極右デモがあるとニューヨーク・タイムズはいいます。このとき、デモに抗議した住民のひとりが死亡し、「極右」がクローズアップされました。トランプ政権のもとで広がった極右、白人至上主義に抗して、サンフランシスコ市教育委員会は平等と多様性のもとにワシントンやリンカーンの名前も拒否すると決めたのでしょう。もちろんBLM、ブラック・ライブズ・マターとも共鳴しています。

 ま、アメリカのなかでもリベラルの牙城カリフォルニア州の、そのなかでもきわだってリベラルなサンフランシスコ市だからこそ、そこまでとんがるんだ。
 そう思っていたら別の日に別のタイムズの記事が伝えていました。保守の牙城テキサス州でも、教育委員会がワシントンとリンカーンの名前を公立学校の名前から外したと(A Letter to My Liberal Friends. By Bret Stephens, Feb. 1, 2021, The New York Times)。

 カリフォルニアとテキサスで、期せずしてワシントンとリンカーンの名前を公立学校から外す動きが起きている。
 教育委員会の決定が、そのまま地域社会に定着するかどうかはまだわからない。でもそういう議論が、歴史修正主義だとか自虐史観なんてものをはるかに超えたひとつの流れになっているかのようです。
(2021年2月7日)