小国が生き残るには

 もしロシアがウクライナに勝ったら、侵略はさらに広がるだろう。
 ロシアは勝ってはならない。クレムリンの戦争マシーンを麻痺させなければならない。
 エストニアのカッラス首相がニューヨーク・タイムズに寄稿し、そう訴えています(Putin Can’t Think He’s Won This War. By Kaja Kallas.  March 24, 2022, The New York Times)。

 エストニアは、ロシアに占領されるのがどういうことかを骨身にしみて知っています。カヤ・カッラス首相は寄稿でまず、ウクライナ南部の都市でロシア軍が市民を拘束し、ロシア領内に連行しているとされることにふれています。彼らはいったいどうなるのか。
「私の家族は知っている。母は1949年、わずか6か月の乳児だったときに両親とともにシベリアに抑留された。幸運にも生きて帰れたけれど、帰れなかった人も多かった。いままたクレムリンはおなじことをくり返している」

 ロシアを勝たせてはならない、勝てば貪欲になるだけだ。矛先を次に自分たちに向ける。
 ロシアを止めるために、私たちはいまウクライナにできるだけの支援をしなければならない。
「エストニアは、すでにウクライナに2億5千万ドル(300億円)の支援を行っている。軍事物資を中心に、救急車、毛布、ベビーフードまで。私たちは防衛する、必要なら戦うと侵略者に思い知らせなければならない。平和を達成する最良の方法は、ときには軍事力を使う意志なのだ」

カヤ・カッラス首相(エストニア)

 人口130万人の国が300億円の支援をしたということは、日本なら3兆円近くの巨額援助です。小国といえどもウクライナを助けたいという強い意志のあらわれでしょう。エストニアにとってのロシアは、日本にとってのロシアや中国とはレベルのちがう現実の脅威です。
 しかもその脅威は、外交では対処できない独裁者の強引さ、横暴さがともなっている。だから、ロシアに対しては賢明な封じ込めを維持するとともに、軍事力の増強に努めなければならないとカッラス首相はいいます。
「エストニアは今年度の軍事費がGDPの2.3%だが、数年かけてこれを2.5%にまで引き上げる。NATO諸国もみな最低2%の支出を維持すべきだ。集団防衛の態勢を強めるべきだ」

エストニアの首都タリン

 これを読んで思いました。
 エストニアはおとなしい上品な北欧の国というイメージがあったのに、そのエストニアの首相が自国とNATOの軍事力増強をいうまでになった。ロシアに対して、決して引き下がらないともいっている。そこまで緊迫感を強めているのかと胸打たれますが、ユーラシア大陸の反対側にいるとその実感はなかなか共有できません。
 きっと、ロシアの「戦争マシーン」を見ていないからでしょう。
 それがどんなものかを見るために、乏しい想像力を働かせるために、ウクライナの人びとの話を聞きつづけなければなりません。
(2022年3月26日)