小鮮肉が世界を救う

 小鮮肉。日本でいうイケメンですね。美しく、若く魅力的な男の子。中国のネット上のスラングだそうです。英語では little fresh meat、でも英語にするとおもしろくない。小鮮肉、中国の若い女性がアイドルの男の子たちをこういうことばで呼んでるそうです。なんだか実感がこもってる。きっと日本の若い女性がBTSに入れこむのとおなじでしょう。

 さてこの小鮮肉を、中国共産党が弾圧しようとしています。
 男が女っぽくなったら、国が滅びる。男は強く、たくましくあれと。
 日本でも中国でも、えらそうなオッサンたちの考えることっておなじなんですね。
「小鮮肉弾圧」はかならず失敗する、いくら強権中国でもそんなことうまくいくはずがないと、北京在住の女性コラムニスト、ヘレン・ガオさんがいっています。美男と抑圧、これ、ひょっとしてすごい文明論じゃないでしょうか(GUEST ESSAY China’s Ban on ‘Sissy Men’ Is Bound to Backfire. By Helen Gao. Dec. 31, 2021, The New York Times)。

 ガオさんによれば、中国政府は数年前から「男性の女性化」を問題にしている。男らしさをなくした世代に危機感を覚え、中国共産党は「男は男らしくあれ」なんていう論文を人民日報に出したりしている(グーグルで翻訳すると「男性的とは今日どうあるべきか」という見出しの記事で、強そうな兵士たくさん写っていました)。

 この1年、小鮮肉弾圧キャンペーンは本格化しました。
 テレビは「なよなよした男や異常な美意識」を画面に出さないよう指示され、人気タレントの画像やネット記事は「男っぽくせよ」と当局にいわれ、変わっている。

 でもね、とガオさんはいいます。
「完全に方向を誤っているし自壊的だ」。それで生活の停滞、成功機会の喪失、都市の住宅難などの社会的、経済的問題をを覆い隠すことはできない。
 政治的な動きがすべて封じられている中国で、小鮮肉への嗜好は人びとが自由を謳歌できるわずかなすきまなのです。実際にそこで、従来の女性蔑視社会は変わってきました。

上海 (Pixabay)

 小鮮肉に向かう動きは止められない。彼らのファン・ベースは北京や上海のような都市部にいる裕福な女性たちなのだから。彼女らが求める男らしさへの嫌悪、結婚に縛られない人生の希求を、党は無視できない。そんなことすればますます子どもを産まなくなるし。

「女に対してやさしく思いやりがあるようになれば、男もよくなるのよ」と、ある女性が中国のネットで書いたそうです。「デートでも結婚でも、誰が説教なんかされたいと思う?」
 小鮮肉を支える女たちが中国を、世界を変えるんじゃないか。ガオさんの論文を見てそんなことを思いました。
(2022年1月1日)