子どものころ、両親の実家があった山梨から干し柿がたくさん届きました。
小さくて固くてしわだらけで、表面に白い粉が吹いた干し柿です。時間をかけて噛むと、ねっとり果肉が甘くからみつき、細長い種を取りながらよく食べました。うちでは干し柿といわず「ころがき」といったけれど、あれは枯露柿のことだったんですね。
やがて東北地方の「あんぽ柿」が、贈答品で来るようになりました。ころがきより柔らかくて丸みがあって、すべすべした「裸の干し柿」という感じでした。子どもごころに、見た目のいいあんぽ柿より、固くてしわくちゃなころがきの方がいい、などと思ったものです。

そんなことをあれこれ思い出したのは、料理コラムニストのテハル・ラオさんがロサンゼルスで干し柿をつくった記事を読んだからです(Sun-Dried Persimmons Are Worth the Obsession. Dec. 29, 2021, The New York Times)。
あんなところで干し柿がつくれるんでしょうか。ぼくの母はかねて「ころがきは、寒くないとダメだよ」といっていました。ロサンゼルスは乾燥しているけれど、あの暖かさじゃすぐにカビが生えるんじゃないか。

ラオさんの干し柿づくりは、こんなふうでした。
まず友人から「ハチヤ」をもらう、といいます。日本の美濃加茂地方で有名な蜂屋柿のことですね。カリフォルニアは、むかし移民が持ちこんだ蜂屋柿が多いらしい。
皮をむき、熱湯をさっとくぐらせてベランダに干す。それを毎日、手でもむ。もみながら、カビがあったらアルコールの綿棒でふく。リスに食べられないよう、ベランダには犬を出しておく。そうして1か月、すばらしい干し柿ができます。
ラオさんによれば干し柿を毎日、手でもむのは負担ではない。手もみをくり返していると病みつきになる、しないではいられなくなるとか。それはあのすばらしい干し柿をつくるために、って思いがあるからでしょうね。
丹精こめた干し柿は、切ると深い輝くような茶色の果肉です。強い甘みと花のような香りがただよい、口に入れると蜜のようにとける。これをいちどでも味わったら、来年もまたしなきゃ、と強く思うとラオさんはいっています。

やっぱりアメリカだなあと思うのは、干し柿はチーズとともに楽しむとあったこと。ウォッシュ・タイプのチーズをカリフォルニア・ワインで、ってことでしょうか。
ホシガキはいまや日本や韓国にかぎらず、グローバルな多様性を獲得しているんだと妙に納得しました。
(2022年1月11日)