押しかけミーティング

 デイケアのみんなでキングの家に行きました。
 キング、金欠の帝王です。
 最重度の金欠病で、がけっぷちといわれてからもう3年も浦河の町で生きています。そのキングが最近、金欠ミーティングに顔を出しません。生きているか、空腹で倒れたか、ついに住居を追い出されたかと心配です。

 ようすを見に行こう、ということになりました。ついでにキングの家でミーティングを開いてしまおう。ということで、浦河ひがし町診療所デイケアの人気プログラム「金欠ミーティング」の、はじめての「押しかけバージョン」が開催されました。

 キングが暮らしているのは、町の隅にある古い一軒家です。ゴミだらけで床はベタつくけれど、にこにこ顔で7人の訪問者を迎えてくれました。
 さっそく話を聞きました。タバコがなくなった、食料は米と塩だけ、おかずなしのおにぎりを食べている、もちろん金はない。通販に100万、家賃に30万とかの借金があったんじゃなかったっけ。ああ、あれ自己破産。ぜんぶちゃらにする、ってこと? だったらこんな暮らし、つづけられないでしょ。そうだけど、あはは、などのやりとり。

 そんななかで出てきたのが「救護施設」でした。
 社会で暮らせない人を受け入れる施設です。キングはそこに入るしかない、といわれている。でも本人によれば、そこは自由がなく徹底的に管理される、精神科病棟に閉じ込められるのとおなじだから行く気はない。
 じゃあどうするのさ。
 えへへへへ。

 とまあ、やりとりの要旨を記せばこんなふうで、本来なら深刻きわまりない話が、どこにも着地しない。むしろ仲間のメンバーは、キングの破天荒な貧乏ぶり、生活破綻ぶりを冗談と笑いで受けとめながら、宙に浮いた話を楽しんでいます。
 その一方で、この日のミーティングでは、キングがこれまで金欠のがけっぷちで生きてこられたのは母親の助けがあったから、その母親が高齢となりついに息子に「救護施設に入ってくれ」と頼みこんだらしい、という事情も浮かびあがりました。
 さあどうするのさ。
 えへへへへ。

 金欠ミーティングは、金欠病を治そうとはしません。治そうとしないからこそ、ぎりぎりの人間の生の姿が現れてきます。金欠ミーティングの可能性は、そこにあるのだろうと思います。
(2021年9月8日)

追記: 本人の了解がないのでこのミーティングの写真はありません。