拘束という非道

 日本の精神科病院で行われる患者の身体拘束。
 これほど恐ろしいことはないと思うけれど、もっと恐ろしいのは、日本ではいまだに多くの精神科医がそれを当たり前だと思っていることでしょう。
 でも先月出された最高裁の判決で、その流れが少し変わってきたかもしれない。
「多くの精神科医」が「身体拘束は必要だ」といっていることに、みんな、というか少なくともメジャーなメディアはこぞってそっぽを向いているからです。
 興味深い現象です。

 身体拘束をめぐる最高裁の注目すべき判決は、10月23日に出されました。
 2016年、石川県の病院で40歳の男性患者が死亡したことに対し、最高裁がこれは「違法な身体拘束」が原因だったと認め、遺族側に3500万円の賠償を支払うよう病院に命じたのです。
 下級審の判断をくつがえし、身体拘束の違法性を認めた画期的な判決でした。
 共同通信や朝日新聞などがこの判決を伝えています。

 ところが、この判決に日精協、日本精神科病院協会のトップが大反対を唱えている。
「弁護士ドットコムニュース」という民間会社のサイトが11月26日に伝えました。
 日精協の山崎學会長が、裁判官は現場を見たことがあるのか、こんな判決には断固抗議する、と記者会見で発表したそうです。
 身体拘束なしで精神医療ができるわけないでしょ、といっている。
 つまり「大部分の精神科医」は身体拘束を当然のことと思っている。それを条件付きとはいえ「違法」と断じた司法は、実情がわかっちゃいないという憤懣の表明でしょう。

 ところが。
 ちょっと調べたのですが、その憤懣の声をメジャーなメディアはどこも伝えていない。朝日も共同も、サンケイですら無視。唯一「弁護士ドットコム」というサイトが伝えただけです。でもこのサイトは弁護士の団体じゃなく、弁護士の仲介業務を進める民間会社のサイト。つまり「大部分の精神科医の声」は、責任あるメディアのすべてが無視した形となりました。
 それを見て、流れは少し変わったかもしれないとぼくは思いました。

 浦河ひがし町診療所では、笑いながらいっています。
 医療以前でしょ。
 病気なのは患者、それとも医者?
 ここでは身体拘束なんて皆無、その発想もありません。
 それは覚悟の問題なんじゃないかと、ぼくは見ています。
(2021年11月29日)