持続する肉料理を

 マクドナルドがベジタリアン・バーガーを出すとか、ミシュラン三つ星レストランが肉料理をやめるとか、このサイトで何度か代用肉や菜食への流れについて書きました。底流には地球温暖化への懸念や持続可能な暮らしへの願いがあります。

 でも、ただ肉をやめても問題の解決にならない、「持続可能な農業」こそが進むべき道だという、なかなか説得力のある反論が出てきました(Ditching meat isn’t the answer for climate change. Better farming is. By Kyle Jaster, May 15, 2021, The Washington Post)。

 反論を書いたのは、ニューヨーク州の養豚農家、カイル・ジャスターさんです。
 ジャスターさんはいいます。自分たちの豚は森のなかで、多様な木の実や飼料を食べ、大きな自然の一部として育っている。これは農地が再生できる牧畜であり、持続可能な農業だ。
 一方、大手企業の大規模生産は、豚が自然の一部ではなく工業製品になる。ぎりぎりのコストで生産される豚は、閉鎖空間に密集し、床はコンクリートで外に出ることもできない。大量の廃棄物が周辺の水汚染や健康被害を引き起こしている。持続可能とはとてもいえない。

 肉をぜんぶやめるのは現実的ではないというジャスターさんは、一方で鋭い指摘もしています。肉に代わるタンパク源としての大豆を、もし大量に低コストで生産しようと思ったら、それもまた工業化と環境破壊になる。単一品種の栽培は大量の農薬、肥料で土地をだめにするし、自然の多様性を損ない、温暖化の原因になる炭素の放出も増えてしまう。

 ジャスターさんは、食品はローカルな流通で生産者が見えることが重要だといいます。
 そして正直にいっています。アメリカの肉はこんなに安くてはいけないと。
「もしもアメリカ人がよりよい肉をより少し食べるなら、小規模でローカル化された食肉システムが維持できる。倫理的にも環境的にも問題の多い大規模生産をなくすことができる。そうなれば食肉の値段は上がるだろう。高級レストランは肉を全面的にやめるのではなく、高くても持続可能な肉を使うことができるのではないか」

 ここにはたんに経済や健康を超えた、かなり根源的な問題提起があります。
 肉でも魚でも何でも、安ければいいというものではない。農業や漁業、牧畜って、ほんらいそんなに安くできるもんじゃない。でも安いのが当たり前と思っているぼくらは、大事なことを見落としてきたのではないか。
 つくっている人の顔が見える肉を、野菜を、魚をめざさなければ。
 めざせるかぎりは。
(2021年6月8日)