救急隊の空回り

 異臭がする、ガス漏れか。
 通報を受け、救急隊が出動しました。
 オーストラリアの首都キャンベラで、15日金曜日の昼ごろです。
 1時間ほど近所を捜索してから、救急隊は安全宣言を出しました。住民のみなさん大丈夫です、ガス漏れじゃありません。ドリアンでした。

 ドリアン、果物の王様です。
 東南アジアでは一般的な大型の木の実で、パイナップルくらいの大きさ、重さです。トゲに覆われた殻を割ると、なかにはまるでチーズみたいにこってりした甘い果肉が詰まっている。
 おお、これ、これと好事家は舌なめずりする。
 やめてくれと、きらいな人は眉をしかめる。

ドリアン

 新鮮なら問題はありません。でもドリアンは果肉が熟しすぎると強烈な臭いを出します。鼻が曲がるような。
 それがキャンベラの騒ぎになりました(Firefighters scoured an Australian neighborhood looking for a gas leak. They found a durian instead. Oct. 15, 2021, The Washington Post)。

 記事によれば、通報があったのはキャンベラでもアジアからの移民が多い地区でした。
 住民のなかにははじめからガス漏れなんかじゃない、ドリアンに決まってるという人がいたようです。前にもそういう騒ぎが起きているので。
 この臭いにはじめて遭遇した非アジア系のオーストラリア人は混乱したでしょうね。

 この日常を超えた臭いは、臭いそのものがすごいのか、それとも文化的な反応が加わっているからか、どっちなんでしょう。
 タイの人にしてみればドリアンは馴れ親しんだ臭い、いいんじゃないの、ですむでしょう。
 一般のオーストラリア人は、異常事態だと思ってしまう。
 それはフランス人が熟成チーズの一部にある特有な強い刺激臭を楽しんでいるのに、日本人の多くはがまんできないのとおなじことかもしれません。
 こういう話でかならず出てくるのが”くさや”、あの干物をオーストラリアで焼いたらやっぱり通報されるかも。

 むかし、ぼくの家にホームステイしていたアメリカの学生が、「爆弾だー」といって台所から逃げ出したことがありました。母がぬか味噌の壺を開け、かき回したからです。

 似たようなことが、キャンベラの街角でも起きたんでしょうね。
 ぬか味噌はドリアンより穏やかだと思うけど。
(2021年10月17日)