日曜の歌二首

もの思へば沢の蛍もわが身より
     あくがれ出づるたまかとぞ見る

『後拾遺和歌集』にある和泉式部の有名な一首だそうです。13日の朝日新聞、「ピーター・マクミランの詩歌翻遊」で取りあげていました。

 ぼくは後拾遺和歌集なんて見たこともないし、和泉式部の歌をひとつも知らないけれど、この歌を読んでほの暗い夕闇を思いました。
 わが身より出たたましいが、ホタルのように漂っている・・・
 歌を読んだのがどういう人か、歌の消息を知らなくても、そこにぼく自身の記憶を重ねてしまう。そういうのって秀歌なんでしょうね。

 この歌を読みながら、ぼくは浦河の町外れにあるせせらぎを思い浮かべています。
 山すその川ともいえない小さな流れに、ぼおっと浮いていたホタルのいくつか。それを見て、子どもの驚きではなく、はかなさとその奥の黒い森の広がりを感じていました。

 和泉式部の歌が「もの思えば」からはじまっているので、ああ、これは深くもの思う人の歌なのだと思う。
 あのときの自分もまた、深くもの思う人だった。そう思いたいけど、そんなことはありません。ホタルを見ながらぼくはたいしたことは考えていなかった。深いもの思いがあったらよかったのになと思っている。そのあこがれが、この歌には詠まれています。
 歌は、現実より空想をはらんだときに飛び立つのでしょう。

 一方、おなじ日の「朝日歌壇」に、こんな歌があり笑いました。

不用意に一方にだけプチプチを
     あげるからこんなきょうだいげんか
        (山添聖子)

 奈良市の山添聖子さんは、子どものやまぞえそうすけくんとともに歌壇の常連です。
 きっとこのときはそうすけくんも、けんかの当事者だったのでしょう。そうすけくんの歌もひとつ引いておきます。

さんかんびおねえちゃんからポイントを
     おしえてもらううしろをむかない
       (やまぞえそうすけ、
        2020年10月25日朝日歌壇)

(2021年6月13日)