昆虫食はペットから

 昆虫食が伸びています。ペット・フードとして。
 犬にコオロギを食べさせる。それもドッグ・フードに加工して。これ、思いついた人は頭がいいですね。
 いまの人間は昆虫を食べないけれど、ちょっと加工すれば犬はよろこんで食べる。いくらでも。コオロギだけじゃなくアブの幼虫やなんかも。

 昆虫産業って、こんなところにチャンスを見つけたのかと感動します。
 しかも犬がよろこぶだけじゃない。昆虫のドッグ・フードは犬の健康にもいいし、牛肉や鶏肉の消費を減らすから、地球温暖化の対策にもなる。これは新しい成長産業でしょう(September 21, 2021, The Washington Post)。

 アメリカでは、4人にひとりが肉食を減らしたいと考えている。牛肉の生産は地球環境を悪化させるから。人間が肉食を控えようとしているのに、1億8千万匹といわれるペットは牛や鶏、ラムや豚肉を食べつづけている。ペットフードはいまや4兆円産業です。
 もしもアメリカのペットがひとつの国をつくったら、その食肉消費量は世界5位になるとか。

 このままですむはずはない。
 そう考えた大手メーカーは、ペットフード用の昆虫食を開発しました。すでに数社がコオロギやアブの幼虫の大量生産をはじめ、昆虫のタンパクなどが入ったペットフードを市販しています。値段は高いけれど、環境問題に敏感な消費者のニーズがあって売れている。生産体制が整えばさらに価格は下がるでしょう。

昆虫入りドッグフード「Jiminy’s」
(同社サイトから)

 さて。
 そうすると、いずれ人間も昆虫食を食べるようになるでしょうか。
 タンパク質の中身は変わらないから、問題はイメージなんでしょうね。あるドッグフードはパッケージに昆虫の写真を載せたら売れなかった。でも写真の代わりに栄養や効用を表示したら、よく売れるようになったそうです。
 そこにはけっこう大きな問題が隠れています。
 ぼくらは市販されている食べものが、どこからどのように来たかイメージできない。メーカーがきれいなパッケージに入れてくるものを見て、買って、食べている。
 見えないというより、見ようとしないもの。

 ぼくらは、犬は昆虫だなんてわからないから食べるんだ、と笑う。
 でもぼくら自身が、じつはペット化されていると思うのです。
(2021年9月24日)