昔日のおもかげ

 港が、にぎわいをとりもどしました。
 先週まで閑散としていた浦河港に、イカ船が群れをなしています。荷揚げ場だけでもざっと数えて十数隻。福井県や新潟県の船まで混じっている。埠頭だけでなく、港内で荷揚げを待つ船がさらにびっしり。まるで混雑した飛行場の周辺で、着陸待ちの飛行機が旋回しているかのようです。

港内で荷揚げを待つイカ船(20日)

 ついひと月前、港には船も人も影がありませんでした。ことしもイカはだめかと、みんな声を落としていたものです。
 それが9月上旬、一変しました。
 イカが獲れだした。それもただ獲れるなんてもんじゃない、日本中のイカ船団が殺到してくるかのように。

 最初に異変に気づいたのは、9月6日のことでした。
「イカが入った、魚屋に。初もの」
 地元の人がそういって、揚がったばかりのイカの刺し身をくれたのです。
 ああ、おお、獲れたてのイカ。
 なんという甘み、恵み。ありがたや。
 感激して食べながら、ぼくは疑心暗鬼でした。もう何年も不漁つづき、きょうはたまたま獲れただけじゃないのか。明日からプッツリ姿を消してもおかしくない。

イカは船内で箱詰めにされている

 いや、ほんとに獲れてるんだ。
 そう思うようになったのは数日後、港に入るイカ船の列を見たからです。
 外海から港へ、長い防波堤をまわってあとからあとからイカ船が入ってくる。

 海にイカがもどってきた。それを漁師が出かけて獲り、港に持ちかえる。夕日を浴び、列をなして粛々ともどる船団。海の幸を「いただく」ことが納得できるような風景でした。

 そんなふうに思うまでに、ぼくらの“イカ涸れ”は長かった。
 獲れたてのイカを味わえるなんて、もうないかとあきらめていた。
 それがこうやって、むかしの日がもどっている。よかったと安堵したいけれど、現実はそう甘くはない。イカが乱獲で枯渇しているのはまぎれもない事実らしい。全国的にはまだまだ品薄。そういう市場を反映して、浦河の地元スーパーでも獲れたてのイカ一杯が300円もしていました。
 ちょっと前まで大きめのでも100円だったころには、もうもうもどれないでしょう。
(2021年9月21日)