映画賞の陰で

 俳優のショーン・ペンさんが、アカデミー賞をボイコットしようと訴えました。
 何かと思ったら、アカデミー賞にウクライナのゼレンスキー大統領を参加させないのはけしからん、と相当怒っているらしい。映画界最大のお祭りに、リモートでいいから彼を出演させ、ウクライナの窮状を広く知らせるべきだというのですね。ゼレンスキー大統領も、もとは映画人です。

ショーン・ペンさん
(Credit: UNclimatechange, Openverse)

 ショーン・ペンさんが、戦争がはじまる前からウクライナのドキュメンタリーを撮っていることは知っていました。ゼレンスキー大統領の記者会見に出ていたこともあります。でも、だからってアカデミー賞の授賞式に参加させろというのは、ちょっと無理筋でしょう。

 ところがこの話、そもそもは大統領の側近が働きかけていたそうです(Zelensky, whose career started in show business, presses Hollywood for an appearance at the Oscars. March 27, 2022, The New York Times)。

ゼレンスキー大統領

 前ウクライナ内務省副長官で、いまはゼレンスキー大統領の広報活動を担当しているエカテリーヌ・ズグラジさんはいいます。
「いま世界中にウクライナとの真摯な連帯ができています。それは町が破壊され市民が悲惨な犠牲になっているからですが、私たちすべてが共有する価値のためでもあるのです」
 その価値、自由と民主主義への戦いにアカデミー賞もまた連帯すべきだというのでしょう。
 しかしアカデミー賞側は、過度に政治化したくないという理由で出演を断りました。
 そんな対応に業を煮やしたショーン・ペンさんが、もうこんなアカデミー賞はボイコットしよう、私は自分がもらったオスカーを溶かして壊すとまで表明したようです。

 ウクライナの人びとは驚くほどの知恵と力を発揮し、ロシアを食い止めています。それを支えたのは西側の結束した支援であり、その支援を引き出した最大の貢献者はゼレンスキー大統領でしょう。けれど大統領の声はいつまでも人びとのこころに響きつづけるわけではない。長引く戦争では、何もかもがしだいに色あせます。
 アカデミー賞にゼレンスキー大統領が出演すれば、とりあえずの効果は絶大です。でも長期的に見れば、アカデミー賞も大統領もともに、むしろ色あせたのではないでしょうか。

 27日、ウクライナにかんして出てきたのは「第二の朝鮮半島」という捉え方でした。
 ロシアが占領地域を固定化し、ウクライナに分断国家をつくりあげる。そんな悲劇が起きないようウクライナは必死に戦うだろうけれど、いまはまだ見通しがたちません。
(2022年3月28日)