日曜日、診療所のスタッフやメンバーが数名、川村敏明先生の家に集まりました。
家の近くの沼に「ハスを植えたい」と先生がいい出したからです。
泥沼にハスを植える。
例によって先生の思いつきです。突然の奇抜な作業にかり出されたのは、診療所の若手スタッフ、ソーシャルワーカーの泉祐志さんと木村貴大さんでした。おもしろそうだと、近くのグループホームから田中孝治さんと水野琢磨さんも顔を見せます。ワーカーの沈没場面が見られるかもしれないし。

最初に泉さんが昆布作業のような防水つなぎを着たところで、もうみんな大笑いでした。すごい、専門家みたいだ、行け行けとはやし立てられ、ヤケ気味に泥沼に踏みこみます。
「そうだ、その辺。苗、押し込め、もっと行け」
岸から川村先生が声をかける。というよりおもしろがっている。
「そんな、沈んじゃいますよ」
泥沼は足がもぐりこんでなかなか動きが取れない。

おっかなびっくり、何本かのハスを植えつけました。防水つなぎに穴が開いていたので水が入り、ズボンがびしょぬれです。まもなく木村ワーカーに交代しました。
「さすが木村、動きがいい。田植えで鍛えてる」
こんどは診療所のコメ担当からハス担当だ、と野次が飛びます。
10本ほどのハスを、どうにか植えました。

この沼には以前ハスが生えていたのですが、近くで工事があったせいで水が抜け、枯れてなくなりました。工事が終わって水はもどったけれど、ハスはもどらない。残念だといっていたら、往診先の人が先生に「これ、持ってけ」と苗をくれたのだそうです。

こうして苗を植えておけば、来年は花が咲きハスが収穫できるかもしれません。
「ことしから来年、2年越しで楽しむんです」
思いついたことを、楽しみながらやる。
それも、みんなを巻きこんで。そうやって巻きこまれた人の病気がよくなるわけではないけれど、人生は楽しくなる。
先生のいうことを聞いて、田中さんたちがふふふと笑っています。
(2022年5月9日)