難民といえば、小船に乗って命がけで海を渡る人たちのイメージでした。
いまなお地中海や大西洋では、西欧にたどりつけず波間に消えている人たちがいるかもしれない。
その難民のシーンが、海から森に移っています。
より正確には、ベラルーシとポーランドの国境です。
ベラルーシという独裁国家が中東の難民を「兵器」にしてEUを「攻撃」していることは、このブログでも書きました(8月19日)。当時ベラルーシが攻撃していたのはリトアニアです。でもいま「戦場」はポーランドとの国境に移りました(Belarus threatens to cut off gas to EU in border row. November 11, 2021, BBC)。

ベラルーシとポーランドの国境に、数千人の難民が足止めにされています。
イラクやシリアからベラルーシに来た難民が、ポーランドに入国しようとしたのをポーランド軍が阻止しているからです。難民は前に進むことができず、かといって後ろはベラルーシ当局が固めているので身動きがとれない。寒い森のなかで野宿しながら途方にくれています。これまでに少なくとも7人が凍死しました。
この事態は、ベラルーシのルカシェンコ大統領という特異な存在抜きには考えられません。
ヨーロッパ最後の独裁者といわれるルカシェンコ大統領は、EUによれば不正な選挙を行い、市民の抗議行動を暴力的に鎮圧してきました。EUが経済制裁に踏み切ったのに対抗して、ことし6月以降、難民を「武器」にEUへの攻撃をはじめている。大量の難民を押しつければEUも混乱すると考えたのでしょう。

難民というのは、本来は人道的に対処しなければならない存在です。
それが受入国の事情によって社会問題となったり、政治問題となったりする。それはしかたがない。けれど難民を、隣国を攻撃する道具にするというのは度を超しています。それも、自国に押しよせた難民を他国に押しつけるのならまだしも、積極的に難民を集めて隣国に送り出そうとしている、というふうに見えるのですから。
わずかに救われるのは、難民のなかには女性や子どももいるけれど、多くは若者とBBCが伝えていることです。それはたぶん彼らにとって、イラクやシリアを出るのがひとつの賭けだったということでしょう。彼らはいつかどこかでやり直しができるかもしれない。
それでもなお、晩秋の暗く寒いヨーロッパの森で、どこにも行けなくなった人びとのことを思います。
(2021年11月12日)