PCRが決め手ではない。
コロナかどうかはPCRでわかるわけではないのです。おなじPCRでも検査のしかたで結果が変わる。コロナでない人がコロナになったり、そうでない人がそうなったり。ややこしいですね。PCRの読み方は、まずは専門家に任せるしかないようです。

ではそのPCR検査結果の「読み方のむずかしさ」って何なのか。
ここを、ぼくにもわかりやすく説明してくれたのがカリフォルニア大学の感染症専門家モニカ・ガンディ教授でした(Monica Gandhi, July 8, 2021, The Washington Post)。

ガンディ教授はコロナをめぐる最近の状況で、「ブレークスルー」が増えていることに注目しています。ブレークスルーというのは、ワクチンを受けたにもかかわらずコロナに感染するケースで、ワクチンの防御を突破してくるコロナ・ウィルスというイメージなんでしょうね。
このブレークスルーが増えたのは、PCR検査の仕方にもよるといいます。PCR検査は、唾液や喉の粘膜のなかのコロナ・ウィルスの遺伝子を調べるわけだけれど、遺伝子はきわめて微量だから増幅させなければならない。この増幅のさせ方、専門的にはCTと呼ばれる方法を、どこまでしたかが重要です。

専門家が登場するのはここです。
PCRで陽性っていうけれど、その検査のCTは何だったのか。あんまり少なかったり多すぎたりしたら、結果は信頼できないんじゃないか、あるいはその検査はただウィルスの「死骸の遺伝子」を検出していただけではないのか。だとすれば陽性でも問題はない、などなど、さまざまな読み方ができます。その読み方をどう説明するか。
それが医師の仕事でしょう。
たとえばコロナに感染して隔離された人が、2回目のPCR検査で陽性と出たけれど、CT値は高いという場合、もう隔離の必要はないのではないか。というか、医師は検査のからくりを知ってそう判断してほしいと、ガンディ教授の論文を読んで思いました。

欧米でブレークスルーが議論されるようになり、その議論が日本にも波及した結果、「検査よりも症状」という流れが生まれています。検査、検査で人を振り分け、隔離を強制するような機械的なやり方ではなく、もっと理性的に、患者、感染者自身の「症状」を中心に考えようという姿勢です。
PCR検査を読み解く。説明する医師を読み解く。日本の医師の置かれた状況を読み解く。コロナはさまざまなレベルのリテラシーのゲームでもあるのです。
(2021年7月13日)