死刑囚の手を取る

 アメリカのバージニア州議会が、死刑廃止を決めました。
 アメリカもヨーロッパとおなじように、死刑のない国になろうとしています。

 この動きを進めたのはバージニア州の前州知事、ティム・ケインさん。いまは上院議員になっているケインさんは、2月19日のワシントン・ポスト紙に寄稿し、あらためて死刑廃止を訴えています。政治家のなかにもこういうまともな人がいるんだと感銘を受けました(I prayed Virginia would end the death penalty. It finally did — and gave other states hope. By Tim Kaine, February 19, 2021, The Washington Post)。

 彼はいいます。
 自分はカンザス州の出身だが、バージニア生まれの妻と結婚してバージニアにやってきた。そこでバージニアは歴史上、もっとも死刑の多い州だと知った。おなじ罪を犯しても、黒人は黒人であるという理由だけで死刑になる法律があった。法律は変わっても、しくみは残っている。

 弁護士としてキャリアを重ね、ふたりの死刑囚の弁護にあたった。
 ひとりは刑執行の直前、最後の食事をともにした。
 もうひとりは死刑執行のため椅子に縛られていた手を、最後まで握った。
 その経験が、このような残酷なことをこれ以上くり返してはならないという思いになっている。

 死刑という制度の現場に立ち会っている。そこからの思いです。
 州知事に当選してからも、思いは変わらなかった。州知事の任期中に何人もの死刑が執行されたけれど、それは「人生最悪の経験だった」といいます。その一方、死刑の拡大には何度も拒否権を行使し、死刑を阻止するための弁護活動を支援してきました。おかげでバージニア州ではこの10年、死刑がなかったといいます。

バージニア州議会(バージニア州リッチモンド iStock)

 バージニア州議会は2月5日、死刑の廃止を決議しました。

 アメリカの死刑制度は、50州のうちまだ27州に残っています。その多くは、制度はあっても実際には刑を執行していないようです。
 アメリカ上院の議員になったケインさんは、連邦政府レベルでの死刑廃止に取りくんでいます。機運は高まっているといいます。

 バージニア州は、ぼくも5年住んだ風光明媚な思い出の地です。そこで死刑が廃止されると聞くとなんだかホッとします。
 死刑制度がある社会って、どこかホッとできませんね。べつに悪いことをしていなくても。
(2021年2月21日)