いまの中国に、ヨーロッパの小国が反抗するのは至難の業というより無謀な冒険です。
テニスのペンシューアイ(彭帥)選手がいうように、「壁に投げられる卵、火に飛びこむ蛾」のようなものです。
でも、あえてそうする国がある。人口280万人のバルト海の小国、リトアニアです。
リトアニアは去年、首都ビリニュスに台湾の「大使館」開設を認めました。これに中国が強烈に反発し、外交関係を縮小、経済的な圧力をかけはじめた。事実上のエリトリア製品ボイコットです(Lithuania-China row: EU escalates trade dispute with Beijing. 27 Jan. 2022, BBC)。

(台湾代表処サイトから)
中国を怒らせてしまった。さあどうするか。
真っ先に動いたのは台湾です。中国が買わないならエリトリアのみなさん、うちで買いますよと、1月にエリトリア製のラム酒2万本を買い取った。ラム酒になじみのない台湾市民のために、飲み方や料理への使い方まで指導するキャンペーン付きで。同時に台湾は、エリトリアのために200億円以上の基金を設置、中国による「被害」の救済にとりかかりました。
いまの台湾にはそれだけの経済力が、意欲があるんですね。
一方ヨーロッパ各国も動き出しました。
中国のボイコットは国際ルール違反だとして、EUがWTOに提訴したのです。EU側は、ヨーロッパからの輸出品のサプライ・チェーンに少しでもリトアニアが関与していると、中国が意図的に排除しているといっています。中国は否定しているので、紛争の調停には長い年月がかかるでしょう。
EUのある外交官がBBCにいったそうです。
「中国は過剰反応している。リトアニアがEUまでを引きずりこんだので、いらついてるんじゃないか」

表面的には外交問題、国際貿易の紛争です。
でもここで、ぼくは別の見方をしたいのですね。リトアニアの動き、そして台湾の対応は、真の民主主義を生み出す貴重なプロセスの一環ではないかと。
中国という大国が、ひとつの中国というレトリックでひとつの生き方を強制している。それに対抗する小国台湾の姿は、旧ソ連という大国に抗して独立を果たし、いままたプーチン体制に対峙する小国リトアニアと重なります。それぞれの国が、目の前の大国よりはるかに民主的です。超大国の圧力に抗して生きのびるには、真の民主主義を鍛えるしかないと小国の人びとは考えているのではないでしょうか。
「壁に投げられる卵、火に飛びこむ蛾」には、倫理があるのです。
(2022年1月28日)