ようやく見つけました。
オオジシギです。
先月末から、2,3度、音は聞いていたけれど姿が見えない。ほんとにいるんだろうかと思ったら、朝、「あの音」がします。
あ、いるんだ。
マグカップを放り出し、カメラをつかんで裏の丘に向かいました。
丘の上は、太平洋から日高山脈まで360度の広い空が見渡せます。

その空の、さて、どこだろう。しばらく目を泳がせて、見つけました。頭上、真上の空高く、小さな鳥影が舞っています。あの鮮やかな飛び方で。
点のような鳥影が、騒がしく鳴き声を立てます。
ジェッ、ジェッ、ジェッ。ジュイーイ、ジュイーイ。高い空から、その鳴き声がすると直後にはじまります。あの音が。
ビュルビュルビュルーーー。
急降下するとき、尾羽根をいっぱいに広げて立てる風切り音です。

鳥のくせになんでこんな音を出すのか。まるで怪物が飛んでくるような、恐ろしげな効果音に聞こえます。ビュルビュルーッというよりゴゴゴゴゴーだ、という人もいて、オオジシギの別名はカミナリシギです。
こんな音を立てる鳥は、地球上でこのオオジシギしかいない。
オスの求愛行動とも、テリトリーを守る威嚇行動ともいわれています。

冬のオオワシ、夏のオオジシギ。
浦河で、ぼくの最大の楽しみのひとつはこのオオジシギとの出会いです。
姿がなくても飛んでいるのがわかる。5月になってその音を聞くと、ああ、ことしもまたやって来たんだね、と声をかけたくなる。

(タシギとオオジシギは酷似しているので専門家も見分けるのはむずかしい。これがほぼオオジシギと思ってよい。iStock)
全長30センチの小さなオオジシギは、浦河のある日高地方に毎年オーストラリアから9千キロを飛んでやって来ます。渡り鳥としても群を抜く飛翔力。でもなんでこんな長距離を、それも浦河まで飛んでくるのか。途中でいのちを落とす仲間も多いというのに。しかも浦河で、ビュルビュル、ゴゴゴと、不思議な音を出して飛びまわっている。
意味のないことを、というか、人間にはわからないことをしている。
いのちをかけて。
それがぼくには、なんだか崇高なことに思えてしまいます。
オオジシギ、ことしもまた出会えてよかった。
キツネに襲われないように気をつけて、秋には無事に家族でオーストラリアまで帰ってほしい。
(2021年5月30日)