昨年末、ひとりの患者が行方不明になったと書きました。
北海道浦河町の精神科クリニック、ひがし町診療所の患者です。
車に乗ってどこかに消えたまま、1か月以上たちました。友人知人はもちろん、警察もヘリまで飛ばし、かなりの態勢で捜索したけれど依然として見つかっていない。
浦河町で精神科の患者が行方不明になることは何度もあったけれど、こんなに長期間まったく消息がつかめないのははじめてです。
どうか、どこかで生きのびていてほしい。
この間ずっと、ぼくはひとつ引っかかっていることがあります。
彼女が精神科への入院をかたくなに拒んでいたことです。
むかし関東地方の病院で電気ショックをかけられた、あれは絶対にいやだといって。

精神病棟の入院患者には「電気ショック療法」が行われることがあります。
この療法は有効な場合もあるとされ、一概に否定はできない。でも問題はそのやり方でしょう。患者に大量の薬を飲ませてほとんど思考ができない状態のまま、人間性を無視した形で「治療」を進めれば本人には癒しがたい傷となる。今回行方不明となった患者が、関東地方の病院で経験したのはそういうことでした。
かつて彼女に話を聞いたとき、こんなふうにいっていたことがあります。
病気がひどいときは、とにかくつらくて、苦しくて、どうすることもできない、ただただ自分を消したい、消えたいと思う。
そういうとき、安心して入院できる病院があれば彼女は回復したかもしれない。でもどんなに苦しくても、絶対に病院はいやだといっていた。いまは北海道にも安心して入院できるところがあるというのに。
20年近く前、関東の病院で負った深いこころの傷が、今回の彼女の行方不明につながっている。そんなふうに思えてならないのです。
(2021年2月12日)