メキシコの動きを、きのうにつづきもうひとつ。
メキシコ・シティーの中心に立つ、コロンブスの銅像が撤去されました。
クリストファー・コロンブスは15世紀西欧で名をはせた航海者であるとともに、彼による新大陸「発見」が先住民の虐殺など耐えがたい災禍をもたらしたからです(Statue of Christopher Columbus in Mexico City to be replaced by Indigenous female figure. September 5, 2021, The Washington Post)。

コロンブス像があった場所には、新しく先住民女性の銅像が立てられます。
メキシコ・シティのクラウディア・シェインバウム市長はこの措置について、「いまや景観を変え、社会正義をもたらすときだ」と述べました。「コロンブス像のあったところには10月、先住民女性の500年にわたる抵抗を記念した碑が立つことになる。わたしたちにはそうすべき義務がある」

(メキシコ・シティ、2010年、iStock)
メキシコのコロンブス像は、じつは去年、修復作業のために取り外されています。しかし修復は進みませんでした。その跡に先住民の像が立つことになったのは、ロペス大統領の意向が働いているようです。
ロペス大統領は先月、16世紀にスペイン軍がアステカ帝国を滅ぼし多大の犠牲をもたらしたことについて先住民に謝罪しました。スペイン王室に対しても、この歴史的な事件について謝罪するよう求めています。

コロンブス像を撤去し、先住民像に置き換える動きを、先住民を支援してきた人びとは歓迎しています。サバイバル・インターナショナルのジョナサン・マゾワーさんはいいます。
「コロンブスをたたえる時代はとっくに過ぎ去った。銅像をすげ替えるだけでは十分ではない。先住民に対する歴史的な犯罪を正しく理解し、そのために何をすべきかが重要だ」
メキシコ・シティの動きはむしろ遅きに失したかもしれません。アメリカではすでにバージニア州やマサチューセッツ州、ミネソタ州などいくつかの州でコロンブス像が撤去されたからです。その背景にはBLM、ブラック・ライブズ・マターの流れもあります。

とはいえ歴史家は、コロンブス像の撤去が先住民の視点だけで進められることには警鐘を鳴らします。歴史は多くの視点のもとで捉えられるべきなので。
その意味で、メキシコ・シティの動きはニュアンスにとんでいます。
今回撤去されたコロンブス像は、全面否定で破壊されるわけではない。シェインバウム市長によれば、像は「ちょっと離れた、目立たないところに移される」ようですから。
(2021年9月10日)