燃料がない、食料がない、まわりは敵だらけ、助けてくれ。
戦場の生々しいロシア兵の肉声を、ニューヨーク・タイムズの映像探索チームが伝えています(Under fire, Out Of Fuel, No Air Support: What Intercepted Russian Radio Chatter Reveals. March 23, 2022, The New York Times)。
なんでまたアメリカの新聞がロシア兵の声を入手したのか。驚くべきことに、ロシア軍は地上部隊の一部が暗号化していない無線を使っていたのです。誰でも聞ける無線交信をウクライナの無線マニアが録音し、それをタイムズが入手したようです。

ふつうだったら、そんな録音はフェイク、詐欺じゃないかと疑います。
でもそこは天下のタイムズ。映像探索チームのスタッフが数百もある録音を別の関連したビデオ映像と照合し、地元民の証言とともに緻密な検証を行い、本物と判定しました。その検証過程も含め、ネット上に公開しています。
https://www.nytimes.com/video/world/europe/100000008266864/russia-army-radio-makariv.html?playlistId=video/investigations
報道されているのは、キーウ西側の要衝マカリフのロシア軍前線部隊と後方司令部の交信です。開戦後まもなくにもかかわらず、すでにロシア軍は相当混乱している。攻撃されている、航空支援をしてくれ、燃料がないと前線から司令部に訴えています。
「退却。退却。モティージャ村から退却する。MT-LB(装甲車)がやられた、置いてく」
「上空にドローン。全方位から砲撃されている」
録音には、銃撃でパニックに陥るロシア兵の声があります。燃料がない、食料もないという声もある。その一方で、村落への無差別攻撃を指示する声もあります。

(Credit: 7th Army Training Command, Openverse)
2月24日に戦争がはじまってわずか2,3日で、どうもロシア軍の動きがおかしいとアメリカ、イギリスの軍事情報筋が把握し、その把握が欧米のメディアに漏れるようになりました。どうしてそれほど早く的確な情勢判断ができるのか不思議でしたが、なるほどこういう情報もあったかと納得しました。
もちろんアメリカやイギリスは民間情報だけでなく、高精細度の軍事衛星や通信傍受で裏づけをとっているでしょう。でもその肝心な部分はメディアを通して国民に伝えられている。その情勢認識はいまでいえば「ロシア軍は多大な損害で立ち往生、ウクライナ軍が小規模だが反攻をはじめた」ということでしょう。
そうした情報のおこぼれを日本のメディアは伝えています。でも現場取材をしていないから、欧米メディアとは認識がずれている気がします。
(2022年3月24日)