温暖化に憲法で臨む

 チリが新しい国づくりを目ざしています。
 12月、革新系のガブリエル・ボリク候補が大統領選挙に勝利し、憲法改正に乗りだしました。 新しい憲法に、チリは世界ではじめて環境保護、気候変動への対策を盛りこむのではないかと見られています(Chile Writes Its Constitution, Confronting Climate Change Head On. Dec. 28, 2021, The New York Times)。

ガブリエル・ボリク新大統領(35歳)
(Credit: neuropata, CC BY 2.0.)

 焦点のひとつはリチウムです。
 高性能バッテリーの原料、電気自動車の核心部分。つまり全産業の動向、世界経済の行方に影響する戦略物質です。
 そのリチウムが豊富にあるチリは、いまやオーストラリアにつぐ世界第2のリチウム生産国。国際的な価格高騰で、採掘にはさらに拍車がかかろうとしています。ところがこれが深刻な環境破壊だとの危惧が強まっている。おまけにリチウムがある北部のアタカマ砂漠は先住民の住むところ。天然資源は誰のものか、環境はどこまで守られるべきかといった議論が噴出しています。

チリ北部アタカマ砂漠

 ふつうならそこで補償金や当面の環境対策が立てられ、根本的な問題は棚上げか先送りです。でもいまのチリはちがう。
 そもそも私たちはどういう国をめざすのか、その理念のもとで自然資源をどうするかを考える。憲法会議の155人のメンバーが進めているのは目先の議論ではありません。地域の声は全体にどう反映されるのか、自然には権利があるのか、子どもたちにも権利はあるのか。

 有力メンバーのひとり、生物学者のクリスティーナ・ドラドル・オーティス博士は、人間は自然の一部だという考え方を憲法に盛りこみたいといっています。
「人間の活動は被害をもたらすものだと想定しなければならない。どこまでの被害なら許されるか、議論しなければ」

チリの首都サンティアゴ

 コア・メンバーのこのような考え方が飛び交う憲法会議は、どんなに活発で、ぼくらの耳目を引きつける議論であることか。
 そこから環境権や気候対策という概念やことばが出てくるのでしょうか。地球への配慮や将来世代への言及もあるのでしょうか。そうであれば画期的です。ことし7月には憲法の草案ができ、そのあと国民投票にかけられるとか。

 ぼく自身のおぼろげな記憶にあるチリは、“フジモリ大統領”の国でした。日本とのつながりにしか目が向かなかったけれど、いまのチリはそんなイメージからはかけ離れている。日本より先を行く国、少なくともそういう動きをはらむ国として捉えるべきでしょう。
(2022年1月6日)