これまでもIOCはひどかった。でも今回はレベルがちがう。
IOC貴族の傲慢や各国の賄賂、不正だけならまだいい。でもオリンピックのさなかに、中国とIOCは連携してひとりのアスリートの人間性を破壊している。
IOCは中国とともに、ペンシューアイ選手に何をしているのか?(日本のメディアはペンシューアイを彭師、ポンショワイと表記するようですが)。
感動のオリンピックの名場面が連日テレビで伝えられている(でしょ? ぼくは見てないけど)のに、こんなことを書くのは気が引けます。でも日本のメディアがほとんど何も伝えないので、書きます。

ニューヨーク・タイムズが、「私たちは“虐殺オリンピック”の共犯か」という論評を載せました(In the ‘Genocide Olympics,’ Are We All Complicit? Feb. 8, 2022, The New York Times)。ウイグルやチベットでの民族虐殺を念頭においてのことでしょう。でもぼくはここではオリンピックとペンシューアイ選手のかかわりに注目したい。

(Credit: si.robi, Openverse)
中国女子テニスのナンバーワン、ペンシューアイ選手は、去年11月、中国共産党幹部に性的暴行を受けたと告発しました。以来、中国社会で孤立したようです。
そのペンシューアイ選手をめぐり、オリンピックがはじまると同時に二つの動きがありました。
ひとつは、IOCのバッハ会長が5日、ペンシューアイさんと会食したこと。
もうひとつは、フランスのレキップというスポーツ紙が、彼女との「インタビュー」を中国監視のもとで行ったこと。「インタビュー」は事前に質問を提出し、監視員立ち会いのもとで行われるなど、とても報道とはいえない中国プロパガンダの一環でした。

こうした「露出」を通して、彼女はくり返し自分の告発を否定し、「何もなかった」かのようにいわされています。
その場面に、IOC会長のトーマス・バッハという人が中国要人とともに立ち会っている。IOCにも中国にもともに、「何も問題はない」というかのように。ただ黙っているならまだしも、「中国の無謬」を誇示する舞台の脇役として。
醜悪です。
ペンシューアイさんの所属するWTA、女子テニス連盟だけはしっかりと、今回の「露出」にもかかわらずWTAの立場は変わらないといっています。ペンシューアイさんの告発について、ひきつづき正式な調査と彼女との自由な面会を求めています。
でももう遅い。ペンシューアイさんはとっくに「火に飛び込んだ蛾」になりました。
IOCの目の前で。
(2022年2月9日)