知れば知るほどわからない

 わからないということから出発する。
 社会学者である筒井淳也さんは、『社会を知るためには』(ちくまプリマー新書)の冒頭で次のように書いています。

・・・社会というのは、知れば知るほど「わからない」ものであるという実感を持ってほしい・・・

 社会学者が書いた本で、それも社会学を目指そうとする学生向けに書いたと思われる本で、こんなことを書いている。
 なるほど。たしかにこれはよさそうな本だ。そう思って読みました。
 読み終わって、そうか、いまの社会学ってこんな方向に進もうとしてるんだ、とおぼろげながらわかった気がします。ていうか、わからないってことがわかった気がする。

 わからないということから出発して、どこに行くのか。
 筒井さんは、わからない社会は「決して思い通りにならない」もの、だからこそ「動かす余地がいくらでもある」といいます。そして、この社会では「意図せざる結果」がいくらでも起きる、それは「緩さ」があるからだ、といいます。

 このあたり、要約すると論理が飛躍したかのようになってしまう。でも本を読みすすめると、ちゃんと論理はつながります。「意図せざる結果」や「緩さ」がどういう意味を持つかが了解される。社会はますます複雑で専門化する一方で、いまや専門家が答えを知っていると想定してはいけないということも。
 ぼくはこの本を読みながら、ここには何か“新しい息吹き”があるなと感じとりました。
 著者はいいます。

・・・社会をこのような視点からみてみようという入門書は、おそらくこれまでになかったのではないか・・・

 著者の筒井さんは立命館大学の教授です。これは著者がいうように、「社会学」への入門書というより、むしろ社会そのものへの入門書でしょう。その意味では誰が読んでもいい本です。
「わかりやすさ」なんてものを求めないために。
 巣ごもりの日々のために。
(2021年3月15日)