移民を受け入れないと

 友人の医師がメールで嘆いていました。
 外国人労働者を「技能実習生」と呼び、ひどい低賃金で働かせ、生活保障も先行きの見通しも与えないのは人権侵害だと。まったくそのとおりです。ぼくもいいたいことが山ほどあるけれど、ここは友人のメールにもどりましょう。
 単純にいえば、こういうことになります。
 外国人労働者を大事にしたドイツは、コロナ・ワクチンを生みだした。
 大事にしなかった日本は、コロナでパニックになった。
 どういうことでしょうか。

コロナ・ワクチン
(ファイザー・ビオンテック製)

 ワクチンの先頭を切っているのはアメリカのファイザーです。フルネームは「ファイザー・ビオンテック」。
 アメリカのファイザー社と、ドイツのビオンテック社の共同開発製品です。その中核にあるのはメッセンジャーRNA(mRNA)技術。極微の遺伝子物質を、人間の細胞が取り込めるように脂質でくるむ。人類未踏の技術を達成したのがドイツの先端企業、ビオンテック社でした。その大量生産、供給を可能にしたのがファイザー社。

 で、このビオンテックの創業者、ウール・シャーヒンさんが、ドイツに来たトルコ移民の子どもでした。トルコ出身の妻とともに、科学者としてコロナ・ワクチンの中核技術を確立したのです。

ウール・シャーヒン・ビオンテック社CEO
(同社ウェブサイトから)

 移民の子でも大学を出て学位を取り、立派に社会の一員になることができる。世界を救う人材に育つ。いやその前に、ドイツが移民を受け入れていたということが話の肝心なポイントです。

 それだけではない。シャーヒンさんとタッグを組んだファイザー社のアルバート・ブーラ最高経営責任者もまた、ギリシャからアメリカへの移民でした。おなじ移民ということで二人は意気投合、コロナ危機に際してただちにワクチン開発に向かった。契約書なんかなしで猛進したとニューヨーク・タイムズは伝えています(Nov. 10, 2020)。二人の出身国、トルコとギリシャが歴史的には犬猿の仲だったにもかかわらず。

アルバート・ブーラ・ファイザー社CEO
(同社ウェブサイトから)

 移民や、移民だった子どもが世界最高のワクチンをつくる。
 そのワクチンが世界を救う。
 そのようにしてできたワクチンを日本は、それ、ちょっと分けてくれませんかと首相が頭を下げるだけ。学術研究というものが何かまったくわかっていないらしい。
 大部分の人は、それはたまたまそうなっただけと思うでしょう。でもぼくはそうは思いません。友人の医師とおなじように。
(2021年7月2日)