第三帝国への瀬戸際

 トランプ政権が軍事クーデター?
 ワシントン・ポスト紙の記者の本が、衝撃的な事実を暴露しています。
 去年の大統領選挙で負けたトランプ氏が、軍を動員して選挙結果をくつがえすのではないかという恐怖には現実味があったというのです(Joint Chiefs chairman feared potential ‘Reichstag moment’ aimed at keeping Trump in power. July 14, 2021, The Washington Post)。

 トランプ政権の異常さも、ここまでとは思わなかった。
 去年11月、トランプ氏は大統領選挙での負けを認めず、不正、インチキな選挙だといいつづけた。あらゆる手段で選挙結果をひっくり返そうとし、トランプ支持の暴徒が議会を襲撃する暴動まで引き起こしたけれど、選挙結果は議会で承認され、トランプ氏の敗北が確定しました。
 そうとうな悪あがき、みっともないかぎりだとぼくは思いました。

 でも、みっともないなんてレベルを超え、何が起きるかわからないという恐怖感が当時のワシントンには漂っていたようです。とくにアメリカ軍の中枢に。
 そう書いているのは、ポスト紙のキャロル・レオニーグとフィリップ・ラッカー両記者です。彼らによると、アメリカ軍制服組のトップ、マーク・ミレー統合参謀本部議長は、当時のトランプ大統領の言動にしだいに神経をとがらせ、「胃がねじれるような思い」で側近にいったそうです。
「これはライヒスタークだ!」
 ライヒスターク、1933年、ヒトラーが議会を襲撃して独裁を確立したできごとです。
「”総統のお告げ”じゃないか」
 それから何度も、ミレー議長はトランプ政権を独裁政権にたとえていたとか。

米国防総省

 当時は、司法省もCIAもFBIも、そして国防総省すらトップはトランプ支持者。アメリカになにかあったとき、ノーといえる最後の歯止めは実力部隊トップの自分でしかない。ミレー議長はそう思いつめ、ひそかに周囲の制服組リーダーと対策を協議しはじめた。そのあたりが、本には生々しく描写されています(『I Alone Can Fix It: Donald J. Trump’s Catastrophic Final Year』7月20日発売予定)。

 ポスト紙は本の一部を紹介しただけですが、これを読んでぼくは1962年のキューバ危機を思い出しました。キューバへの核ミサイル持ち込みをめぐり、アメリカとソ連が対峙した事件です。当時はただの米ソ対決、にらみ合いと思っていたけれど、後年、あれは核戦争の瀬戸際で、ほんとに危なかったのだということがわかってきました。
 トランプ政権の危なさも、ぼくらはいまだに真相がわかっていないのかもしれません。
(2021年7月15日)