精神科の別世界

 浦河では、精神科への入院が笑いとともに語られる。
 6月20日、このサイトでこう書きました。そんなことを書いたのは、きわめてめずらしい話だからです。日本の精神科病院の多くはそうではありません。

 ということを、ワシントン・ポスト紙が伝えていました。日本の精神科病院で横行している「身体拘束」がいかにすさまじいか、そこから日本の精神医療の異常さが浮かび上がります(Tied down and locked away: Harrowing tales emerge from Japan’s psychiatric patients. June 19, 2021, The Washington Post)。

 身体拘束は、医療や介護の現場で患者が暴れたりしたとき、拘束具を使ってベッドに縛りつける措置です。患者は仰向けになったまま身動きができず、苦しいだけでなく、安易に行えば人間性を否定され、深く傷つけられる。諸外国では運用が厳しく規制されているのに、日本ではこの身体拘束が異常な頻度で行われています。

 ぼくは拘束というのは本人の興奮が収まるまで、数時間程度と思っていました。とんでもない。平均100日近い。しかも毎年多数の死亡者を出している。いまも1万人の患者が拘束されているといいます。

 この記事の元となったのは、身体拘束について研究してきた杏林大学の長谷川利夫教授の論文です。去年12月、専門誌に発表されました(Epidemiology and Psychiatric Sciences, Cambridge University Press)。

 それによると、日本の身体拘束は人口あたりアメリカの270倍、オーストラリアの600倍、ニュージーランドの3200倍の頻度で行われています。
 気が遠くなるような数字です。
 それを行う側は、人手が足りないから、安全のために、といっている。
 でも、アメリカやオーストラリアはどうして身体拘束なしでもやっていけるのか。
 日本でも、浦河のように身体拘束をほとんどせずにやってきたところもあるというのに。

 暴れたら病院に閉じこめる。縛る。動けないようにする。
 この、ミシェル・フーコーのいう「別種の狂気」は、考えない、あるいは考えることをやめたところから生まれるのでしょう。

 記事のなかにあった「日本には巨大な精神科産業が存在する」という指摘、サイキアトリック・インダストリーということばが本質を突いています。
(2021年6月22日)