素顔のゼレンスキー

 ミサイルや戦車が、イナゴのように押し寄せてきた。
 ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍をイナゴにたとえています。
 その一方で、プーチン大統領はロシア帝国の誇大妄想にとりつかれている、その妄想がウィルスのようにわれわれを襲っているともいいます。2年前のコロナ、こんどのロシア。
 ゼレンスキー大統領のことばとレトリックは、プロの政治家のそれではない。だからこそ、ウクライナ国民のこころに届くのでしょう。

ゼレンスキー大統領の声明発表
(3月3日、キエフ)

 3月3日、記者会見に臨んだゼレンスキー大統領の声明がSNSにアップされました。
「ロシアはわれわれを地上から消し去ろうとしたが失敗した。彼らは私たちを黙らせようとしたが、いま世界が私たちの声を聞いている」
 けっして侵略に屈することはないと、大統領は国民に語りかけています。

 声明のあと、記者団とのやり取りで大統領は素顔をさらしていました。この部分はSNSには出ていない。外国メディアではおそらくただひとり、ニューヨーク・タイムズのアンドルー・クレーマー記者が伝えています(Behind Sandbags, Ukraine’s Leader Meets the Media. By Andrew E. Kramer. March 3, 2022, The New York Times)。

 興味深いのはここでのやり取りです。
 演壇を降りたゼレンスキー大統領は、小さな椅子に座って身を乗り出し記者団に語りかけている。そこでたとえば、ロシア軍が戦場に多数のロシア兵の死体を放置しているのは、被害を自国民の目から隠すためだという報道についてこういっています。
「悪夢だ。そんな行為をするのがどんな人か想像もつかない」
 死んだロシア兵のなかには、自分の子とおなじ世代の若者が多い。
「彼らは、スーツを着た人たちが下した決定で、制服を着せられて死ぬんです」

 この戦争で自分も死ぬかもしれない、こわくないかと聞かれていっています。
「それはこわい。もし自分や、自分の子どもが死ぬのがこわくないといったら、それはどこかおかしい人だと思う・・・大統領の自分には、こわがる権利がないけれど」
 大統領でなかったらどうしていましたかという質問には、こう答えています。
 ボランディアになって軍から銃を受け取り、前線に出ていったかもしれない。でも、後方で兵隊に食料を配る役割かな。
「多分、みんなみたいに撃つのがうまくないので」
 じつに、人間的な大統領だと思います。
(2022年3月4日)