美容院とDV

 美容院がDVを発見する。
 こんな試みがアメリカではじまっています。なかなかいいアイデアだと感心しました。

 ソーシャルワーカーや福祉の専門家、警察がどれほど目を光らせても、DV、家庭内暴力の被害者を見つけ出すのはむずかしい。アメリカでも日本でもそれはおなじです。でももし美容院のスタッフがちょっとした訓練を受けていたら、客の女性がDVの被害者だと気づけるかもしれない。関係機関に通報して、多くのDVを防げるかもしれない。
 そんなふうに考えた人びとが、美容師たちに「DV教育」を義務づける法律をアメリカのテネシー州でつくりました(Tennessee requires domestic violence training for cosmetologists. March 10, 2022, The Washington Post)。

 州議会を動かしてこの法律をつくったのは、自分自身もDVの被害者だった美容師のスザンヌ・ポストさんです。ポストさんはDVの被害を受けながら、専門家に指摘されるまでそれがDVだとは気づきませんでした。しかしいったん気づいてから、地域のYWCAなどとともにDVをなくすための活発な活動をはじめています。

 美容師はDVを見つけるにはかっこうの場所にいる、とポストさんはいいます。
 客の女性たちと、通りいっぺんではない特別な関係にあるから。日常はもちろん、卒業式や結婚式など人生の節目にのぞむ彼女らも見ている。ちょっと離れて彼女らの人生を「ふかん」できる立場にいる。
「だからDVのようなことについても見えてしまう、特別な存在なんです」

 顧客の女性の髪が抜けていないか、傷あとはないか。美容院に来るとき、本人ではなく夫やボーイフレンドなどのパートナーが予約を取り、つねに付き添ってくるようなら、それはパートナーが彼女を支配しているからかもしれない。髪の毛の色を変えたがらないのは、パートナーが髪の毛の色まで支配しているからかもしれない。そういう「兆候」をつかむこと。美容師ならそれができる。
 しかし兆候に気づいても、美容師が自分で行動する必要はありません。そうすべきでもない。気づいたことを関係機関に通報すればいい。それと、そういう通報先の情報などをさりげなく美容院のどこかに貼り出しておくこと。

 テネシー州の法律は、美容師だけでなく理容師そのほか関連した多くの業種の人びとに、DVについての研修を義務付けています。新法はことし1月から施行されました。
(2022年3月12日)