映画「CODA」は「期待以上の秀作」と書きました(1月29日)。
その後、この映画はアカデミー賞の作品賞の候補となり、出演したろう者の俳優、トロイ・コッツァーさん(53歳)が助演男優賞の候補になっています。ニューヨーク・タイムズがコッツァーさんのインタビューを掲載しました(‘CODA’ Star Troy Kotsur on His Historic, Healing Oscar Nomination. By Kyle Buchanan, Feb. 16, 2022, The New York Times)。
CODA(日本名は「コーダあいのうた」)は、マサチューセッツ州の漁師家族の物語。4人家族のうち娘ひとりが聴者、つまりコーダ(Child Of Deaf Adults)です。ほかのろう者の役をろう者が演じ、手話とろう文化がすなおに表現されている映画でした。ことに父親役のコッツァーさんがいかにも“ろうっぽく”光っていた。

アカデミー賞にノミネートされた思いを、コッツァーさんはこう語っています。
「自分の背中にはずっと重たいほこりが積もっているかのようでした。それがノミネートで消えた感じです。これまで経済的にたいへんだったし、差別もあったし」
役者としてデフシアターには出演していたけれど、聴者の世界では舞台も映画も出られなかった。オーディションを受けたいと年間300通の手紙を書いて、返事が来るのは1通くらいだったといいます。それさえ出かけて行くといつも聞かれる。「しゃべれるのか」と。聴者の社会は、ろう者をろう者のまま受けいれようとはしませんでした。

「たいへんな犠牲を払いました。それが、重たいほこりが積もってたってことなんです」
映画CODAも、オーディションを受けてから1年、返事がありませんでした。
「ずっとみんなで相談してたんだろうね、どうすりゃいいかって」
その間に、やっぱりろう者の役はろう者が演じるという決断があったのでしょう。その決断が、この映画をアカデミー賞にノミネートさせることになりました。
それにしても、コッツァーさんの「背中に重たいほこりが積もっている」は、じつにろうっぽい表現です。手話が目に浮かんでしまう。手話通訳はここを直訳したのだろうけれど、それがまたよかった。
コッツァーさんはいいます。アカデミー賞に認められて、やっと身体中の傷が治ったようだと。

(Credit: Joseph Brent, Openverse)
妻は、授賞式には何を着て行こうかとわくわくしている。でも男はタキシード、制服みたいなもんでしょといいながら、こうも付け加えている。
「ろう者には特別な服があるんだろうか。クリスマスツリーの電飾みたいなのを着るのかな」
文字にすればどうということもない。でもこの部分、コッツァーさんの手話を見たらぼくらは笑いこけるにちがいありません。生粋のろう文化の人です。
(2022年2月17日)