脱植民地の発掘調査

 化石を探す人たち、古生物学者が「正義」を求めています。
 アフリカやアジアの途上国で恐竜の化石や古代の人骨、遺品を掘り起こし、それを持ち出して先進国の博物館に展示するのは、どこまで許されるのかと。
 いまはそういうことを考え、自分たちの研究のしかたを変えるようになったんですね。

 スウェーデンのウプサラ大学で博士課程にいる古生物学者、モハマド・バジさんは、そういう新しい流れに沿った発掘をアフリカのチュニジアで進めています(March 22, 2021, The New York Times)。

 ハジさんたちはチュニジア中部のガフサという町の近くで、5千600万年前の古代の地層にある貝やサメの化石を調べています。その当時地球で起きた急激な温度上昇に、生物がどう適応したかがわかるので。
 その研究自体はニュースではない。
 研究の進め方がニュースです。なぜならハジさんたちは自分たちのしていることを最初から地元にオープンにしてきたから。できるだけ地元の人に話しかけ、解説し、発掘作業にも地元の人を雇いました。おかげで貴重な地元情報も得ている。

チュニジア、ガフサの近郊 (iStock)

 従来、発掘は大学の学者と学生だけで進めるのがふつうで、地元には秘密にすることも多かったといいます。貴重な化石があるとわかれば盗掘の対象になるし、そういう闇市場もできているので。
 ハジさんたちは、地元の人と発掘を進めるのは「植民地主義を抜け出したいからだ」といいます。
 先進国の学者が途上国の化石や遺骨、遺品を持ち去る、ときには盗掘して、というのは植民地時代の搾取の形。いまはもうそんな時代ではない。ハジさん自身がレバノン出身で、エジプトやスウェーデンで学んできたという背景からすれば、脱植民地化は当然のことなのでしょう。

 この記事を読んで考えました。
 時代が変わったとするなら、大英博物館のあの膨大な収蔵品はどうなっちゃうんだろう。
 いやその前に、日本だってアイヌ民族の骨を収蔵してきた北大や東大の研究者たちの「研究」とは何だったのか。
 アイヌの人びとの人骨は、1930年代以降、墓を暴かれ各地の大学などに持ち去られたものが、わかっているだけで2千体もあるといいます。去年までに一部は返還されたものの、1千300体分はもとにもどすこともできず、北海道白老町の追悼施設「ウポポイ」に置かれたままです。

 ほんとうの意味での「正義」は追悼施設をつくることよりもハジさんのような研究姿勢を確立することではないでしょうか。こころのなかの植民地主義、帝国主義を抜け出して。
(2021年3月24日)