衝撃です、この本。
友人のソーシャルワーカーが、東田直樹さんの本を紹介してくれました。
じつはぼくも、かねてから読まなきゃと思っていた本です。
さっそく読んで、霧が晴れるかのようでした。
東田直樹著、『自閉症の僕が跳びはねる理由』(角川文庫)。
2007年に、著者が13歳のときに書いたベストセラーの文庫版です。東田さんは自閉症のために会話ができない。でも文字で、読み書きで自分の思いを伝えることはできる。その力で自閉症者が何を考え、どんな世界に生きているかを生き生きと伝えてくれる本です。

あー、うー、意外にほとんどことばを出せない。奇声を発したり跳びはねたり、いきなり家を出て行方不明になったり、「常識」では扱いきれない子です。でも彼は、自分はそういうことをしてしまうけれど、それは不安であったりよくわからない衝動であったりする。そこを自分なりに突き詰めようとしています。家族や友だちと仲よくしたいけれど、うまくいかないのはなぜか。そうしたあれこれをこんなにわかりやすく、というか意外な形で語ってくれた自閉症者はおそらくはじめてでしょう。だからこの本は各国語に翻訳され、世界的なベストセラーになった。
東田さんは、そういうやっかいな自分を受け入れています。
「僕たちは、自閉症でいることが普通なので、普通がどんなものか本当は分かっていません。
自分を好きになれるのなら、普通でも自閉症でもどちらでもいいのです。」

じつは50年前、ぼくは自閉症のドキュメンタリーに衝撃を受けたことがあります(TBSラジオ『 ヤッホー・返ってこないこだま』(河内紀、1970年度イタリア賞グランプリ受賞作)。
当時のラジオ・ドキュメンタリーは先鋭で数々の名作がありました。そのひとつを聞き、自閉症のなかには飛び抜けて頭がよかったり感性が鋭かったり、ぼくらにないものを持っている人たちがいるんだという感覚を抱いていました。
自閉症は「すごいんだ」という感覚。
しかしこれは年月とともに薄れていった。
やっぱりつきあいづらい人たち、という、ありきたりで平板な思考にぼくはいつのまにか陥っていたと思います。その怠惰を東田さんの本は吹き払ってくれました。
自閉症の人たちは、精神障害者とおなじように、普通ってなんですかということをぼくらに問いつづけている存在なんだと思います。
(2021年6月25日)