知りませんでした、こんなのがあるなんて。
ローンライブラリー(lawn library)、字義通りに読めば芝生の図書館ですが、実際には個人の庭先につくったミニ図書館をさすようです。
自分の家の前に、郵便ポストよりちょっと大きな箱をつくり、そのなかに好きな本を入れる。数冊から、せいぜい数十冊程度、通りがかった人がそれを見て、興味を持ったら勝手に持ちだしてゆく。読み終わったら返してくださいね、というようなものです。

個人が勝手につくるものだから、決まった形があるわけではない。そのローンライブラリーを最近、人種差別反対の運動に使っている人たちがいる、とワシントン・ポストが伝えていました(New lawn libraries are popping up across the country, and they’re stocked with just one kind of book: Anti-racist. December 16, 2021, The Washington Post)。

そのひとつ、アラバマ州のクリステン・バーシオムさんのライブラリーは、去年のBLM運動、黒人への差別と抑圧に抗する運動が広がったときにできました。バーシオムさんは白人が多数派の町に住んでいますが、黒人差別は黒人だけでなく、社会全体に危機をもたらすと訴えたくてライブラリーをつくったそうです。だから置いてあるのはみな、人種差別への反対を子どもや若者に伝える本です。
バーシオムさんのライブラリーは口コミで評判になり、利用者が増え、あちこちから数百冊の本が寄付されました。現金1千ドルを寄付した人もいます。できてまもなく、20冊ほどの本がごっそり盗まれたこともありました。でもハーシオムさんはめげずに本を補充し、ライブラリーをつづけています。
「本を盗むような悪い人もいるけど、いいことをする人のほうがずっと多い。たくさんの人が支持してくれてるんですよ」

おなじようなライブラリーが、オクラホマ州のほかの町やワシントン、サンフランシスコなどにもできました。そうしたミニ・ライブラリーを支援するRUAR(Rise Up Against Racism)という非営利の全国組織もできたようです。RUARはライブラリーのための箱をつくり、そこに置く本を集めたり配ったりしています。サンフランシスコの場合、個人の住宅だけでなくローンライブラリーは学校にも広まっているそうです。

地域のどこにでも本があり、自由に読める。そうなれば、より多くの人がより多様な考え方に触れることができる。
日本ではあまり聞くことのないローンライブラリー、なかなかしゃれた試みではないでしょうか。
(2021年12月18日)