表彰台のポリティクス

 日本メディアは無視したようです。
 でもアメリカのメディアは大きく伝えました。BBCも。
 女子砲丸投げで銀メダルをとったレーベン・ソーンダーズ選手が、表彰台で「政治行動」をとったことを。

 ソーンダーズ選手は銀メダルを受けとったあと、表彰台でほかの選手がにこやかにメダルと花束を掲げているとき、両腕を頭の上にあげて交差させX印をつくりました。あきらかな政治的主張です。表彰台の上ではいかなる政治行為もしてはならないというIOCの規則に違反する行為でした(Shot-Putter’s Gesture Renews Controversy Over Podium Protests. Aug. 1, 2021, The New York Times)。

表彰台のソーンダーズ選手(左)
(ニューヨーク・タイムズのサイトから)

 控室にもどる途中、「あのX印のジェスチャーは何か」と記者に聞かれたソーンダーズ選手は答えています。
「抑圧された人びとのために」

 ソーンダーズ選手は、LGBTQを自認しています(本人はLGBTQではなく、LGBTQIA+といっているようですが)。2018年にはうつ病で精神科の治療を受けました。かねてから人種差別に反対する運動を行っています。そうしたことから、「抑圧された人びと」というのは黒人をはじめとする人種的マイノリティ、精神障害者、LGBTQと呼ばれる人びとを指しているのでしょう。
 インスタグラムに、彼女は書き込んでいます。
「黒人でLGBTQで精神的な問題を抱えている人がいたら、私がいるからね」

 ソーンダーズ選手の行為は、明らかな五輪憲章違反です。
 IOCは今後ソーンダーズ選手に対し、懲戒やメダル剥奪、五輪からの追放などのなかのいずれかの処罰を行うでしょう。
 でもソーンダーズ選手が所属するアメリカのオリンピック委員会は、そんなことで選手を処罰したりはしない。同委員会は去年12月、選手が他人を攻撃したりヘイトの対象とするのでないかぎり、「政治行動」をふくむすべての表現の自由を認めると決めたからです。

 中国の鼻息を気にして、表現の自由を認めたくないIOC。
 ブラック・ライブズ・マターに押され、自由な表現を認めざるをえないアメリカ。
 両者のせめぎあいがはじまります。
 日本のメディアはまったく関心がないみたいだけれど。
(2021年8月2日)