野蛮な親がいる。
その親から子どもを引き離し、「正しい」社会で育てる。
そういうことが、20世紀世界のあちこちで行われました。
野蛮な親というのは、異人種、異文化の民、先住民です。
有名なのはオーストラリアの先住民隔離政策でしょう。20世紀初頭から数十年、オーストラリア白人社会は先住民の同化政策を進めるため、先住民の親から子どもを強制的に引き離しました。親から引き離され、収容所に入れられたり里子に出された子の数は数万人といわれます。
オーストラリア政府は2008年、この隔離政策が誤りだったと認め先住民に謝罪しました。

おなじようなことが、カナダでも起きています。
カナダのブリティッシュ・コロンビア州で、このほど寄宿学校の跡地から215人の先住民の子どもの遺骨が見つかりました(Remains of 215 Indigenous children discovered at former Canadian residential school site(Reuters). May 29, 2021, The Washington Post)。

カナダの場合、19世紀末から20世紀末にかけて先住民の子ども約15万人が親から引き離され、寄宿学校などに入れられたといいます。子どもたちは親から離されるだけでなく、親の文化や言語も否定され、失いました。
虐待や劣悪な環境で亡くなった子どもの数は4千人といわれます。その一部が、今回ブリティッシュ・コロンビア州で見つかったのでしょう。
カナダのトリュドー首相は、「これはカナダの暗く恥ずべき歴史の一部だ」と述べました。
もちろんカナダはいまでは先住民の存在を認め、同化ではなく共生をめざしています。
こうして過去の深い傷跡は、明るみに出るだけまだいい方でしょう。

日本では、「暗く恥ずべき歴史」なんてものはないことにされている。
カナダのように、憲法で少数民族の権利を認めてはいないし。
オーストラリアのように、首相が先住民に謝るようなこともしない。
在日朝鮮人をはじめとする外国にルーツを持つ人びとや異民族に対し、日本が何をしてきたのかをぼくらは知りません。知らないから、カナダやオーストラリアの先住民に何が起きたかを想像することができない。そんなむかしのことは、もういいと思う。
でも、むかしの話ではないのです。子どもを親から引き離し同化させようとするのは、いま現在中国のウイグルで進んでいることなのです。それがどういうことかを、ぼくらはうまく想像できていないのではないでしょうか。
(2021年6月4日)