解決しないからいい

 診療所のデイケアでは金曜日、幻聴ミーティングがありました。
 もともとは幻聴について話しあう集まりですが、この日話題になったのは「お客さん」。お客さんが幻聴と結びつくことがわりあい多いらしいので。

 お客さんというのは、浦河語で「マイナス思考」のことです。
 自分はデイケアできらわれているとか、職場で悪口をいわれていると思うこと。ほんとはそうではないのに、本人がそう思いこんでしまう。そういうマイナス思考にとらわれることを、浦河語で「お客さんが来る」といいます。これがじつに多い、誰にも。

 自分はデイケアの雰囲気を壊しているんじゃないか、という人がいました。まわりは驚きます。え、そんなこと思ってたの、と。とてもそんなふうに見えないよ。でも、そう思ってるんです。
 まわりに人がいると、「ここにいてはいけない」という気持ちになる人も。ふうん、その気持がひどくなると、どうするの。出ていきます。あ、それでときどき急に帰っちゃうんだね。
 職場で、仲間に「フイッとされちゃう」人もいました。その仲間がコンビニではふつうに話しかけてくる。どっちがほんとのその人なんだろう。

 メンバーだけではありません。スタッフもお客さんを抱えています。
 何かしても、ふと「自分はでしゃばってるんじゃないか、それで避けられているんじゃないか」と思う。「よくやってるね」とほめられると、みんな本心では「辞めてほしい」と思ってるんじゃないか、と勘ぐってしまう、などなど。

 じゃあみんな、お客さんがひどくて「がまんできない」ときは、どうするの。
 やっぱり逃げます、が多い一方で、「相談する」「いってみる」という人もいました。「あたしはここにいていいんですか」と誰かに聞く、相手に問いただしてみる。でも、その場はしのげても、それでお客さんがなくなることはない。問題は解決しない。

 解決はしないけれど、「こうやって話すと、少し気が楽になります」という人がいました。
 浦河ひがし町診療所デイケアの、すべてのミーティングの要です。
 さらに、笑いとさざめきをとおして耳に残ったことばがありました。
「こうやって話しても問題は解決しないよね。だからいいんだ」

 解決しないからいい。
 やけっぱちの一言のようにも思える。でもこれ、とても味わい深いことばじゃないのか。
 何なんだろう、この、かすかに引っかかる「大事なもの」の感覚は。ぼくはこのことばについて、考えこんでいます。
(2021年9月18日)