精神科の患者が自宅で暴れると、多くの人は警察を呼びます。
ことに患者が医療機関につながっていないような場合、警察に頼ることが多い。患者を警察力で物理的に抑制してしまう。
その場は収まるけれど、そういうやり方は長期的に見るとマイナスです。患者の病状も、周囲との関係性も悪化する。
ではどうするか。
警察ではなく、「まずワーカーが対応しよう」という大胆な試みがアメリカの各地ではじまっています(In New Mexico, a bold experiment aims to take police out of the equation for mental health calls. October 9, 2021, The Washington Post)。

ニューメキシコ州アルバカーキでは、2年前に起きた事件からこの試みがはじまりました。
ひとりの精神科の患者が自宅で暴れ、家族が警察を呼んだところ、駆けつけた警察官がナイフを振りまわす彼女に向かって21発の銃弾を浴びせたのです。
いくらなんでもやりすぎだ。そう考えた人たちが改革に乗り出しました。
この9月から、おなじようなケースでは警察官より精神科ソーシャルワーカーや精神保健に通じた人が駆けつけるようにしよう、ということになりました。精神科の患者だけでなく、薬物乱用者、ホームレスなどさまざまな人を対象にして。

ワーカーたちはみな、興奮している人を落ちつかせるさまざまな訓練を受けています。警察の制服ではなく「安全局」と書いたTシャツを身につけ、常時地域をパトロールする。車には銃ではなく、水とスナック菓子を積んでいる。それを、混乱した人と対面したとき良好な関係をつくる小道具として使います。そんな実践がはじまりました。
プログラムのアレックス・ヴィタール調整官はいいます。
「救急搬送は少なくなった。勾留も、危険な警察の介入も減った。市の財政のためにはいいことばかりだ」

アメリカでは、警察に射殺される人が年に約1000人います。その4分の1以上が、精神科的には危機的な状態だったとみなされている。
けれど警察の力による制圧では、精神科の問題は解決できない。
アルバカーキの試みは、市長の先導ではじまり、多くの支持をえています。ただし多数のワーカーと契約するなど、財政的にどこまで維持できるかは今後の成果しだいでしょう。
日本とは文化も風土もちがうからかんたんな比較はできないけれど、少なくとも精神科の大事な部分をふまえたうえでの試みです。エッセンスを取り入れてみたいですね。
(2021年10月22日)