遠くから見ると冬景色の北海道も、足元には春が近寄っています。
きょうは山小屋から歩いて5分ほどの沢に行ってきました。
ススキとイタドリの枯れ枝をかき分けて雑木林に入ると、カタクリが咲いています。ほかの草が生えていないので、落ち葉のあいだに紫色がはっきりと浮きあがっている。ひとつ見つけてそのあたりを見回すと、あちらにもこちらにも見えてくる。花がみんな下を向いて咲いているので写真は撮りにくいんですが。

湧き水がはじまるあたり、わずかに水が流れている小さな沢には、ヤチブキの黄色い花が群落をなして咲き誇っています。一般名はエゾノリュウキンカ、ヤチブキは北海道の名称でしょう。谷地に咲く蕗という意味でしょうか。いまの時期の代表的な山菜で、茹でるとくせのないさっぱりした味が楽しめます。

そうして山小屋に帰ったら、けさ摘んだばかりのボウフウをどっさり届けてくれた人がいました。
刺身のツマに使っているボウフウは栽培ものでしょうが、これは天然もの。見たことがないほどに大きい。洗ってそのまま試食すると、シャキッとした食感のなかにほろりと苦みが広がります。このさわやかさ、市販の刺身のツマにない野の香り。
おお、これ、これ。
ウドといい、セリといいボウフウといい、それぞれの苦味。

むかし開高健という美食と冒険の作家が、フォアグラだとか海燕の巣とかじゃなくて究極の味はほろ苦さだと書いていました。ぼくは美食と縁がないけれど、歳を重ねた末に行きつく旨味はこういうもんだという気もします。
スーパーで買ったのではなく、野原で摘んだのを分けてもらう。
町にはない、究極のぜいたく。
いや、究極にいま一歩か。
みんなでいっしょに楽しんではじめて、こういうものはほんとうのぜいたくになります。
まだまだがまんの日々です。
(2021年4月25日)