ワクチンとちがって、コロナの治療薬は来年、一気に広がるかもしれません。
製薬大手2社が、途上国にも特許を公開するからです。
先進国だけが、金持ちだけが助かればいいという時代ではない。先進国が途上国を支援し、ともにコロナを切り抜けようという動きです。そういう方向に動かなければ、グローバル企業も生きのびることができません。

大手2社はファイザーとメルク、ともに世界的大企業です。
両社が開発したコロナの治療薬は、ファイザーが「パクスロビッド」、メルクが「モルヌピラビル」、いずれも飲み薬で、重症化や死亡のリスクを大幅に減らせると、このブログでも書きました(11月8日)。

本来なら、こうした新薬は開発した企業が独占的に製造、販売して莫大な利益をあげます。今回もそうなっておかしくはなかった。しかし両社ともに、まだ認可される前から特許を公開し、途上国でもこれらの治療薬を製造できるように道を開きました。

メルク社は10月、世界107か国でこの薬が製造できるよう、協定を結んだと発表しています。この「善意」は、メルク社が過去の教訓からえたものでした。同社は2000年代にエイズ治療薬を独占し、アフリカ諸国から厳しく批判されています。その轍を踏まないということでしょう(Merck agrees to share its Covid pill. Oct. 27, 2021, Newsletter, New York Times)。
またファイザー社も、国連が主導するMPP(Medicines Patent Pool)というプログラムのもとで、世界95か国がパクスロビッドが製造できるよう、広く特許を公開すると11月17日に発表しています。(Nov. 17, BBC)

治療薬ではなく、コロナ・ワクチンについてはファイザー社は特許を公開していない。この点は市民団体から強い批判があります。逆にいえば、そういう批判が無視できなくなったから、治療薬の場合は「譲歩」せざるをえなかったのでしょう。
こういう形で、社会とそれなりにコミュニケーションを取れるかどうか、それが21世紀の企業統治の重要な柱です。
日本経済が衰退したのは、そういう新しい時代の流れに企業も消費者もいまひとつ敏感になれなかったからではないかと、ぼくは疑っています。
(2021年11月22日)